日本は品質管理に優れた国、
だからできあがる商品は皆安心して長く使える、
だから世界に歓迎される、
そう思い込んでしまいがちです。
これは本当でしょうか。

先日の会合で、寿司が流行っているが、
いかがわしい寿司が多くなっているので、
日本のように調理師免許制度が必要では、という意見がありました。

品質のいかがわしい素材の寿司が提供されたのでは
寿司文化に傷がつく、そういう危惧からのようです。

一定基準を設け、それを満たせる人だけが寿司を扱えば、
寿司の品質の維持に役立ち、
和食文化普及につながるのではという考えです。
どうやら日本政府の和食普及運動に感化されているようです。

さて、あなたはいかがお考えですか。

現在日本では、昔品質で世界を制覇した日本商品が、
次々と世界市場から撤退し、
昔は華やかだった業界が低迷しています。

決して品質自体が悪くなったわけでも、
品質管理が疎かになったわけでもないのに、
いったいなぜそのようなことになってしまったのでしょうか。

そこに品質管理の問題点があるような気がします。

もし、品質管理自体に対する考え方に問題があるのであれば、
すぐに変更する必要がありそうです。

品質管理とは、一定の規格を維持する体制であり行動ですが、
その一定の規格は過去の特定の時期に決められたもので、
それをいつまでも維持、管理することには問題がありそうです。

私はこれを「フローズン思想」と呼んでおります。
魚の冷凍保存の考え方です。

新鮮な物を新鮮状態に保管しようとする技術ですが、
これは元の形をそのまま保管しようとする思想で、
「品質管理=物を中心にした考え方」です。
つまり、「市場変化への対応に欠ける発想」です。

つくる人は、「どうだ、こんな素晴らしものは他にはできないぞ」の
誇りがあるのでしょうが、
市場は、自分のニーズや期待にそぐわなければ、
まったく興味がないため、買う気になりません。

その誤差を追跡し、対応していかなかったつけが、
徐々に回ってきたのが今の日本のようです。

アメリカでは、日本の品質へのこだわりに対して、
オーバーエンジニアリングという言葉を使用し、
そこまでしなくてもとの考え方が強いようですが、
もしかしたらそこから新たな展開が始まるかもしれません。

「どうだ」という誇りは、
不必要と素晴らしい可能性への諸刃の動きです。

しかし、一つだけはっきりしていることは、
品質管理とは、機械的制御、エレクトリック制御の問題でも、
テクノロジーの問題でも、システムや体制の問題でもなく、
市場を見据え、商品をどうグレードアップしていくかの
製造姿勢と製造技術であり、
全社的マーケティングの問題として捉える必要があるということです。

品質管理は決して製造業だけのものではなく、
販売業、サービス業においても必要な考え方です。
別の言葉に置き換えると、
品質管理=時代変化に応じた付加価値創造活動と言えます。

たとえば、調理師免許制度は、
一定の素材をどう管理し、どう処理して、
どうサーブするかの技術的指針を徹底し、
実践レベルの一定化を確保するアプローチです。

寿司を例に取れば、いかに新鮮な魚を手にいれ、
その持ち味を活かした調理をするかが問題になります。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。
その落とし穴とは、新鮮な魚の入手にこだわり、
それをそのままサーブすることに意識過剰になり、
その新鮮さをそのまま提供してしまうことです。

魚の美味しさは、新鮮さではなく、
寝かせ方で生み出される味の提供であり、
それを忘れてしまうことです。

つまり、品質とは、
できたまま、獲れたままにこだわることではなく、
その素材、商品をいかに消費者に喜んでもらえるような形に
加工していくかにあります。

そのままではなく、
いかに消費者向けに加工していくかが品質管理になります。

また、資格制度は、その後の定期的アップツーデイト活動と
グレードアップ活動があってこそ意味のあるもので、
一度取ったらいつまでも、後は本人まかせでは、
意味のない制度になります。

アメリカでは、医師試験に通り専門分野を看板に掲げると、
その後定期的継続的勉強が強いられ、
それに通らなければその看板をはずさなければいけません。

だから、看板を掲げ続けているということは、
安心を約束していることになります。

日本では、医師の判断で科目を決め、
その専門に関する特別な継続教育やトレーニングがあるわけでも、
定期的に継続してその後のリニューアル試験もないわけで、
すこぶる心配なことです。

自由競争になじまない資格認定制度では業界の発展は望めません。
誰でもが参入できるように間口を広げ、
その自由競争の中から質を高めていくアメリカ的やり方に比べ、
質の向上保証がないからです。
有資格者がその権益を守るため妨害すらしかねません。

今、アメリカでは誰もが寿司職人になれます。
調理師免許制がないからです。
これは、自動車修理メカニックに整備士資格がないのと同じです。

自由競争で切磋琢磨させ、
それにより技量アップ、質アップを図ります。
競争に負ければ廃業しかありません。
だから皆必死です。

保健所の検査は、安全と衛生面から定期的に厳しく行われ、
レストランはその衛生状態をランクづけされますので、
非衛生と査定されるとそれなりのランクに落とされ、
即ビジネスに影響し、ビジネスの崩壊につながる仕組みです。

また、ライアビリティー保険制度で、
質や技術向上をプッシュしたり、
訴訟という制度で消費者からの監視を厳しくすることにより
消費者安全を確保しますので、
調理師やメカニックはそういうことに巻き込まれないように
必死で切磋琢磨せざるを得なくなるようになっています。
資格制度以上に品質を確保しているのです。

つまり、品質管理の一方法と目される資格制度以上に、
自由競争という消費者の安全と当事者能力アップを促進する体制があるため、
品質管理が保証されているのです。

その上、各自の自由奔放な工夫が行われているため、
アメリカの寿司はこれほど普及したのであり、
日本式寿司にこだわっていたならば、
果たしてこれほど普及したかは疑問です。

また、品質管理とは、一定規格を厳守、温存することではなく、
いかに市場に応じて品質を確保しながら、
変化に対応していくかの工程でなければなりません。

早い話、付加価値創造をテーマにしていなければ、
市場からそっぽを向かれる自縛の思想になります。

そのあたりを忘れた製造姿勢が
日本に悲劇を招いた気がします。

また、これに関しては、
ビジネスの市場対応姿勢のあり方も
改善される必要がありそうです。

日本企業のウェブサイトを見ると、
注文ページは立派につくってあっても、
それ以外の問い合わせ、苦情申し立てに対して
コンタクトさせる方法が記載されておりません。

アメリカでは必ずコンタクト、
つまり、どんなことでも会社に連絡したいことがある人が連絡できるように、
コンタクト先が記載され、
どのような用件でも直接会社とコンタクトできるようになっています。

このような苦情相談受付(カスタマーサービス窓口)をはじめとする
消費者対応姿勢なしのツケが、日本企業に回ってきたような気がします。

頭でっかちな市場調査やコンサルタント重視の姿勢が、
実際の利用者の生の声を収集する姿勢を怠らせ、
時代の変化を把握しそこねた悲劇です。

製造と市場の動きが連動しない品質管理体制、
これでは柔軟性と機動性を旨とする競争に勝てるわけがありません。

繰り返しますが、品質管理とは、会社サイドだけの問題ではなく、
消費者や取引関係者にも波及する重大事であり、
一定のサービスや商品の質が、時代変化に応じて変えられる体制、
かつそのために並以上の安定した質を提供することをテーマにした
サプライ体制でなければいけません。

昔を温存したり、踏襲、精密度を競う
技術屋の腕試しレベルであってはならないのです。

今回は品質管理のあり方について考えてみましょう。

まず、我々が認識しなければいけないことは、
品質管理は大手企業だけの問題ではなく、
何がしかの商品やサービスを提供する
すべてのビジネスにとって重大なテーマであるという点、

また、それは過去の一定時点での基準をかたくなに順守することではない点、
提供するものに価値を付加することである点を再確認する必要があります。
魚の保存におけるフローズン思想ではないのです。

1. 市場や時代に合わせた品質の提供
2. 品質管理の重大さの徹底
3. 従来を盲目的に踏襲する危険を排除する体制の確立

1. 市場や時代に合わせた品質の提供

昔、私はある商品を日本で製造するための
素材探しに苦労したことがあります。

極東本社があった日本に工場をつくったので、
アメリカから既成品を輸入する代わりに、
本社からスペックをもらい、
それに基づいて日本で製造しようとしました。

ところが、サプライヤーは同じ石油会社でありながら、
日本には同じグレードの製品がないのです。

政治的理由か、市場の違いかわかりませんが、
ともかく同じ製品でありながら、
そのグレードと同じものを極東では扱っていないのです。

結果?
その違いに応じて他の材料のスペックを変え、
同じ仕事ができる商品にすることになりました。

同じ仕事を達成できるが、
そのスペックは本社のものとはまったく異なるものになったのです。

つまり、それなりに対応できる技術力があったからこそ
可能になりました。

品質管理とは、機械的、電気的、エレクトリック対応以上に、
同レベルの技術者の配置が不可避ということになります。

時代は常に変化しています。
だから、それを無視したり、
その時代一辺倒の対応をすると問題になります。

たとえば、私の弁当宅配では、
健康志向や携帯電話対応が求められています。
対応を一部分に追加、様子を見ている最中です。

もっとも重要なテーマは、
いかにつどつどの市場のニーズ、欲望、期待を
ピックアップするかになります。

市場とのコミュニケーション体制の確保と同時に、
市場を注意深く観察する習慣が不可欠になります。

これには経営者だけではなく
全社一丸となっての姿勢が必要です。

2. 品質管理の重大さの徹底

最近世界的ハンバーガーのファーストフードチェーン店傘下の工場から、
期限切れ鶏肉が出荷され、大問題になり、
その余波でその企業は一挙に信頼を失い、
目下業績が低迷しています。

品質管理とは、技術的問題以上に、
人的問題でもあることが明確になった事件でした。

なぜそうするかのミッションが不徹底だと
起こりやすくなる問題です。

3. 従来を盲目的に踏襲する危険を排除する体制の確立

昔のままで通用する場合と、
それではまずい場合があります。

経営者は自分のビジネスの使命がどちらに属するかを把握し、
それなりに対応する必要があります。
意味のない変更と無責任な踏襲は共に命取りになります。

世の中は変化しています。
気候変化、人種分布変化、経済環境の変化、競争相手の展開、
経営者は常にそのあたりに注意を払うことが必要です。

昔のままでは時代を乗りきれなくなってしまうのです。
魚であれば新鮮だけでは美味しくないのです。

昔、日本の自動車業界が好調な最中、
アメリカの自動車業界が部品のアッセンブリ化を
行っていることを発見した日本の業界では、
大騒ぎになりました。

コスト削減と品質維持の両戦略を
同時に実行していることに気づいたからです。

品質だけにこだわっていた日本は
その後その動きを模倣し、今日に至っています。

うちは既存商品を売るだけだから、
うちには品質管理など関係ない、
そう思っているあなた。
商品、サービスの質は大丈夫でしょうか。

同じ材料を使っての調理だから、
それほど差が出るはずなどない、
そう思い込んでいるあなた。

どうして、ある店だけが特出した人気店、
行列のできる店になっているか、気になりませんか。

品質管理とは、誰かの問題ではなく、
実はもろにあなたのビジネスとって重要な問題、
ぜひそれを認識してください。

(メルマガ『アメリカ発!「スモールビジネス」成功のセオリー』2015年4月5日発行 Vol.770より)