「一匹狼」という言葉があります。

狼は群れをなして生活する動物ですが、
仲間とうまくコミュニケーションが取れなかったり、
リーダー争いに敗れたり、
成人した狼が自分の新しい群れをつくるため、
群れを離れたりする場合の狼を指します。

一匹狼というと、いろいろなニュアンスがあり、
右ならえ右のごとき人の言いなりにならない人、
自分の進むべき道を心得て、その道にまい進する人、
自分の意思で行動できる人、といった肯定的見方と、
人とうまくやっていけない人、ワンマンな人、変人、
といった否定的見方もあります。

この経営メモでは、
自分の城を持つ意識で行動しているが、
組んで仕事したり、グループ活動、組織活動を苦手とする、もしくは嫌がり、
自分がトップとして自分だけの独自の活動を展開したがる起業家に
的を絞って考えてみたいと思います。

早い話、人を使えない人、
人と組んで仕事したがらない人、
人と組んだ仕事のできない人を指します。

さて、「1+0=1」で1以上の仕事はできません。
しかし、「1+1=2~3」の仕事達成が可能になります。

組むということは、自分と相手の両方の可能性を活かす活動で、
おかげで結果は、自分一人で行動したときより
素晴らしいものになります。

なぜ組むことが必要、重要なのでしょうか。

私たちは自由競争の社会でビジネスを展開しているからです。

生き残り、勝ち残りがテーマの社会でのビジネス展開です。

だから、自由競争の社会では、相互依存度が高まります。

潰れないため、より大きな仕事を達成し、
それにより競争に勝つために必要だからです。

そのため、ビジネスは、提携、代理店制、フランチャイズ制、
そして他企業の買収を模索し、
それにより自由競争に勝ち抜いて成長していく方法を採用します。

組むという意識は
こういう形で展開されているのです。

この例でもわかるように、
組むとは、単に誰かを知っている、取引があるレベルではなく、
共通目的、目標達成のため、お互いが協力しあって
金銭面もからんで自分の存続と力拡大を旨にできあがる
関係の樹立になります。

最近では、いろいろなネットワークが
オンライン、オフラインで展開されており、
それがビジネス成長のツールになると
勘違いしている人が多いようですが、
知っている、ネットワークがあるという程度では、
ここで言う「組む」にはなりませんので、
そのあたりをしっかり把握しておくことが重要です。

共通利害関係を有し、金銭面がからみ、
その上で共に仲間を利するように活動する、
そういう関係があってこそ
組んでビジネスに取り組めることになります。

一旗会をはじめ異業種の集まりは非常に多いようです。
しかし、そこでビジネスのネタを探そう、誰かに売り込もう、
いざとなったら助けてもらおう程度の発想では、
ビジネスに成功することはできません。

そのつながりの中から自分と組んで仕事ができる仲間を選別し、
実際にビジネス関係を構築して、
ビジネスを展開する意識と行動がなければ意味がありません。

しかし、ここで忘れてならないのは、
組むためには、自分は何を相手に提供できるかを
明確に把握していることが必要だということです。

その上で、ギブ、シェア、相手を活かす、
そういう意識が必要です。

下さい、下さいの姿勢では、誰も相手にしてくれません。
自分のことで目いっぱいのビジネスが、
自分の足を引っ張ることが明白な相手など
相手にするはずがありません。

自分の力になる、自分が得をする、
そういう相手だからこそ、話に乗ってくるのです。
組めるのです。

東に基盤をもっている人が、西に基盤をもっている人と組む、
特定の層(性・年齢・趣味等)の顧客を持つビジネスが、
他の層の市場を持つ相手と組む、
技術主流のビジネスが販売主流のビジネスと組む、
特定国のビジネスと組むなど、
組むパターンはいろいろですが、
要はお互いにメリットのある相手と組むことが不可欠です。

相手は自分にないものを持っている、
だからこそ貴重な存在になり、
だからこそ協力関係も生まれます。

一匹狼的展開は、お山の大将として行動でき、
自分なりの自由な発想を遺憾なく発揮できる強みがありますが、
発想が固定化し、活動が限定化して、行動範囲が小さく、
いざとなった場合の対応に苦慮する例が多いようです。

昔、私の知っていたビジネスマンは、アイデアマンで、
次々とアイデアを生み出しました。

どれをとっても、本格的ビジネスにしたならば
億万長者になれそうなアイデアでした。

しかし、彼の場合、どれをとっても、
テストをするわりに実現させるまでには至らず、
すべて形になる前に次のアイデアに着手し、
そのうち病気で亡くなってしまいました。

協力者がいなかったため、
悲劇的結末に終わりました。

組むという発想を忘れ、
自分のアイデアに酔っていたための悲劇でした。

もう一人のビジネスマンもアイデアマンでした。
この方はアイデアが出ると即実行です。
しかもアイデアを信じており、
思いきって大きな勝負に出ます。

しかし、相棒である奥さんは、自分の本業に絞るべきだ、
また、旦那がそうであるからこそ、
本業を守らなければの考え方になり、
旦那の仕事には一切関与せず。

結果?
アイデア⇒大きな投資⇒大きな損⇒借金の雪だるまの繰り返しに終わり、
とうとう離婚して日本へ帰国してしまいました。

協力者を得られなかったことが、
自分のアイデアを活かしきれなかったケースでした。

組織においても自分一人ですべてを取り仕切る
ワンマン経営者=一匹狼がいます。

私が知っているケースでは、
日本本社から会社経営を委託されたある方は、
アメリカの会社を見事軌道に乗せました。

権限が与えられた上、潤沢な予算を与えられた彼は、
ワンマン経営を実行。

しかし、ある時点で日本本社が、
彼の無軌道な経営に気づき、彼を解雇しようとしました。

彼はうまく逃げまわり、
引退という形で会社を辞めることができました。

彼がいなくなった後に調べてみると、
借金経営だったことが判明。

一匹狼の経営は、周りの意見を聞かなかった無謀経営。
一見成功している会社に見えた実態は、
実のところ見かけだけだったことがわかったのは
彼を辞めさせた後でした。

組織を無視した一匹狼経営は、
こうして会社を危機に陥れたのです。

もし、あなたが一匹狼から脱却したければ、
つまり、他人と組んで仕事をしたいと願うならば、
その方法は至って簡単です。

一緒に仕事したいと思う人に、
ちょっとお知恵を拝借したいのですが、
ちょっと教えてください、
ご意見をおうかがいしたいのですが、と尋ねることです。

人間、他人から頼られたとき、
むげに断ることも無視することもできません。
きっと話に乗ってくれるはずです。

一度突破口が開いたら、
そこからコミュニケーションを開始すればいいだけの話です。

難しい人だと思っていたが、本当はこんな人だったのか、
あなたがそういう印象を与えることができたならば、
人と仕事することが簡単になります。

一匹狼というと、
かなり否定的に捉える人が多いようですが、
決して一匹狼すべてが
伸び悩んだり失敗したりするわけではありません。

私の知りあいに、人と仕事するのはいや、
人と接すのもいや、という方がいます。

立派なビジネスマンで、3軒も店を持ち、
店の経営に関しては、見込みのある若者に
自分のビジネスの25%の株を持たせ、
その若者にビジネスを切り盛りさせ、
自分はさっさと現場から離れ、
自分一人でのんびりできる4軒目の店をオープン。

お客はあまり来ませんが、
ご本人はそれでもそういう雰囲気が好きで経営。
ある時点で店を売り、
さっさとビジネスから引退してしまいました。
一匹狼でしたが成功した例になります。

彼は自分の弱点を認識していたので、
お金でそれを解決したのです。
スマートな経営者でした。

芸術家、職人、エンジニア、学者には、
一匹狼タイプの人が多いようです。

自分なりのものを生み出そうとすると、
どうしてもそういうことになるのかもしれません。

有名な科学者、研究者の中にも一匹狼タイプの人が多く、
そのおかげで新たな発明や発見が行われているようです。

人と妥協しない姿勢、
それが仕事に求められるようです。

結論として、
一概に一匹狼がいいとか悪いとは言えません。
仕事の性格による場合もあります。

しかし、経営者という職業からすると、
ビジネスという運命共同体で働く人を預かっている以上、
常に他の人に思いをはせる姿勢が不可欠で、
それにより自分の立場と責任を認識し、
ビジネスを前進させるためにはどうしたらいいかを
常に考える義務があります。

経営者はビジネスの面倒を見る、従業員の面倒を見る、
取引先の面倒を見る、顧客の面倒を見ると、
守るべき対象がたくさんあり、
自分のことだけ考えていれば
それで済むというわけにはいきません。

そして、そういうことを考えれば、
当然ビジネスを成長させざるをえなくなり、
そのとき、どうしても出てくるのが、他のビジネスと組む、
他のビジネスと力を合わせるという選択肢になります。

成長、飛躍はそれなりの力があってこそ可能。
一人でできること以上の仕事を達成しようと思えば、
組む、力を結集する、そういう発想が経営者には求められます。

ただし、そのためには、
自分なりに提供できる価値、力が必要で、
かつ、自分にとって重要な相手を選別できる力がなくてはなりません。
そういう発想を持たないのが一匹狼の経営者です。

さて、自分の好きなことをしたい、
好きなことを自分の好きなようにやりたい、
他人からゴチャゴチャ言われるのはイヤ。
そういう思いでいっぱいのあなた。

それも結構ですが、
他人の力を借りると、あなたのしたいことが、より簡単、
そして、より大きく実現する可能性がありますよ。
だったらあなた、どうしますか。

(メルマガ『アメリカ発!「スモールビジネス」成功のセオリー』2015年3月2日発行 Vol.765より)