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人事について

人事について

山口憲和

はじめに
第1部 人事採用
第2部 業績評価
第3部 昇進、昇給、解雇
第4部 社内摩擦処理(トラブル処理)

はじめに

人事というと堅苦しいイメージがありますか? あまり商売とは関係ないけど、仕方なくやるもの、と思っていますか? 私はまったく反対で、人事は会社をわくわくさせてくれるとても面白いものだと思っています。そして、商売と切ってもきれないものだと思っています。

せっかく人事のことに取り組むなら、売上拡大やコスト削減のために大きく役立ててください。戦略を実行するためのツールとして、そして、企業の使命を実現するツールとして、人事を使ってください!

今回は下記の構成でお話を進めます。
第1部 人事採用
第2部 業績評価
第3部 昇進、昇給、解雇
第4部 社内摩擦処理(トラブル処理)

特に業績評価は企業の業績向上の鍵を握るしくみです。なぜ経営と人事が切り離せないかと言うことはこの業績評価のところで特に実感していただけると思います。

■日米人事部 役割の違いについて
日本の人事部をご存知の方は、採用、人材配置、評価、報酬、異動・昇進、教育・研修から退職まで、すべて人事部がその活動の実権を握っていました。すべて人事部が「勝手に」決めてくるわけですから、自由もない代わりに自己責任もありません。そのため、「いい人がこない」「評価の制度が使えない」「研修が役に立たない」と言いたい放題言っていた経験はありませんか? しかし、米国ではそんな不満を人事部にぶつけるわけにはいかなくなります。
なぜなら、米国では人事の権限は現場のマネジャーが持つことになるからです。現場のマネジャーが自分の部署に必要なポジションを決定し、採用する人材像を定義します。そして、採用面接や採用の決定もマネジャーの仕事。採用されてからのオリエンテーション、研修、目標設定から評価、そして退職や解雇まで、マネジャーが自分の裁量で行わねばなりません。基本的に人事を自由に決定することができると同時に自己責任を負わねばなりません。もう、人事部が悪いとは言えません。
もし、あなたが経営者であれば、現場のマネジャーに人事の運営をうまくやってもらえるようにリードしなければならないわけです。「大変だな」と思いますか? それとも「わくわく」しますか? 恐らくその両方が存在します。エキサイティングな米国のマネジメントの世界へようこそ! 人事を(ひとごと)としてとらえずに、自分のこととしてとらえるために、どうぞこの記事を楽しんでご覧下さい。


第1部 人事採用

1.人材を採用する前に

最初はたった一人で始めたあなたのビジネスも軌道に乗り始め、さあ、いよいよ事業拡大に挑戦です。ヒト、モノ、カネ、情報、いろいろなものに新規投資しなければなりません。その中のひとつがヒト。人材の採用ですね。ここまでは日本でも米国でも同じです。しかし、米国では人材の採用の前に、きちんと決めておかねばならないことがあります。なぜなら、米国では連邦法や各州法によって雇用に関わる様々なルールが存在し、一歩誤ると訴訟を招きかねない事態になるからです。

具体的に言うと、Equal Employment Opportunity (EEO)の考え方を基に構成される複数の法律を守らねばなりません。採用、配置、評価、報酬、昇進、解雇、退職等すべての人事プロセスにおいて、人種、信条、国籍、肌の色、性別、年齢、身体障害、復員軍人、宗教等を理由に差別することを禁じているものです。特にこのうち、40歳以上・女性・マイノリティ(東洋人、黒人、ヒスパニック等)、復員軍人、身体障害者は保護されるグループとして差別に対して厳しい目で見られます。連邦政府は直轄の組織Equal Employment Opportunity Commission (EEOC)によって、EEOに関連する法律の違反を取り締まっています。労働者からの訴えによって違反行為が認められれば、雇用者はEmployer sanction(行政制裁)を受けることになります。そこで、採用においても人種、信条、国籍、肌の色、性別、年齢、身体障害、復員軍人、宗教等に関わる質問、記述の要求は行わないで下さい。

また、米国の人材の意識も日本と違って「そこまで言わなくてもわかってもらえるだろう」という日本の感覚が通用しません。伝えたいことはきちんと明文化して考えやルールを伝える準備をしておくことが必要でしょう。

2.必要なもの~ハンドブックと人事制度~

それでは法律をカバーしつつ、従業員のやる気を出させることに必要な明文化とは何でしょうか?
2つあります。
(1) 従業員用ハンドブック
(2) 人事制度

(1)従業員用ハンドブック

日本で言う就業規則に似ているものです。内容は会社の説明、会社の人事ポリシー、報酬、福利厚生、コミュニケーション、会社の規定、ハンドブック自身の規定等を盛り込んで作成します。社員に伝えなければならないものを明文化するのがハンドブックです。
例えば、会社の説明のところでは、社長自ら従業員を歓迎する言葉や経営方針、経営目標、従業員に期待すること等を文書化していきます。もう一度自分の会社が目指す方向を整理しなおすためにも、そして、採用された従業員へ理解していただく道具としてもハンドブックは有効です。

ハンドブックの基本的な役割は会社を従業員に理解してもらうこと。そして、特にプラス面への寄与という意味では、ベネフィットの充実や従業員を公平に扱うという内容を盛り込むことで従業員の士気を高め、売上貢献に副次的に貢献する効果を持っています。また、マイナス面の回避という意味では、従業員への会社説明に一貫性を持たせ、その都度説明資料の準備をするコストを削減します。さらに、説明不足や一貫性のないマネジメントが原因で訴訟を受けるリスクを回避します。

採用の際には、ハンドブックを持っていることを応募者にアピールしましょう。ハンドブックを用意してあるということはスモールビジネスであっても従業員にしっかりした方針で雇用するという方針を具体的に伝える効果があるでしょう。

以下には特に従業員ハンドブックにも掲載すべき、福利厚生の情報をいくつか御紹介しておきます。

■ 勤務時間・休憩時間・有給休暇

労働時間や休憩時間は州法によって規定されています。ハンドブック作成の時に確認するのはもちろんですが、規定はポスターになっていて掲示が要求されているので、必ず従業員全員が見られるところに掲示してください。労働時間と同様、残業時間の計算の方法も州によってルールが決まっています。カリフォルニア州では、「週40時間を超える労働、1日8時間を超える労働、1週間に7日連続で働いた場合の7日目の8時間までの労働に対しては通常の報酬の1.5倍を支払うこと」、さらに「1日12時間を超える労働、1週間に7日連続で働いた場合の7日目の8時間を超える労働については通常の報酬の2倍を払うこと」が義務付けられています。日本企業では長時間労働を強いることで訴訟になるケースもあるようですが、法律に準拠したルールをハンドブックに明文化し、一貫性をもったマネジメント(人によって違う扱いをしない)をすることがスムーズな労使関係を築く基礎になります。

また、休憩時間はランチタイム30分以上、4時間ごとに10分の休憩というように最低限の条件が決定しているので、確認しておいてください。

さらに有給休暇はカリフォルニア州では与えることは義務づけられてはいません。しかし、ほとんどの企業が有給休暇を福利厚生として与えています。そして、カリフォルニア州では一度与えられた有給休暇は賃金とみなされますので、未消化の有給休暇は年度末に企業が買い上げる(有給休暇日数分の日給を支払う)かあるいは、翌年に繰越を認める必要があります。

■ 看護休暇・病欠休暇

看護休暇はFamily and Medical Leave Act(1993年) で定められました。直訳すると家族休暇及び医療休暇法でしょうか。対象となる従業員の(1)子供の誕生、養子縁組、(2)病気の配偶者看護、(3)従業員の重病に対して12ヶ月間に12週間を上限とする無給休暇の取得を認めるものです。半径75マイル以内に50人以上の従業員がいる企業が施行対象となります。

病欠休暇はSick Leaveと呼ばれ、有給休暇と区別しています。1999年より本人だけでなく配偶者、子供、両親の看護にも使えるようになりました。有給休暇と同じく、企業によって付与日数は変わりますが、通常1年に6日~12日程度を付与しているようです。勤続年数が増えるに従って増やしている企業もあります。Sick Leaveは賃金とはみなされず、未消化分を買い取る必要はありません。

詳しい説明は、California Department of Industrial Relationsのホームページ
(http://www.dir.ca.gov/)
にも掲載されていますのでご覧下さい。またこのページの中に問い合わせ電話番号もありますので活用してください。

(2)人事制度

一口に人事制度と言ってもみなさん、何を想像されるでしょうか?採用ですか?それとも評価ですか?私はここで人事制度と言ったら3つの核となる制度があると定義いたします。
・ジョブディスクリプションの制度
・報酬制度
・評価制度
この3つです。

ジョブディスクリプションはポジションごとにどのような内容の仕事をするかを定義したものです。このジョブディスクリプションに従って、固定の報酬(サラリー)が決まります。このジョブディスクリプションに従って、年間の目標を決めて、その評価をし、変動の報酬(ボーナス)が決まります。

固定の報酬と変動の報酬のしくみを決めたものが報酬制度。
目標を設定して、その達成度を評価していくのが評価制度です。

たった3つのシンプルな制度を用意するだけですが、従業員の方は自分がどんな役割を行って、その報酬がいくらで、成果によってどんな報酬が得られるかが明確にわかります。

わかりやすい例があります。大リーグで活躍していた新庄選手が日本ハムに戻りましたね。その時の契約が確か、日本ハムで1年プレーすることに対して8,000万円。出来高で5,000万円というものです。プレーすること、つまりジョブディスクリプションに定義された役割を行うことに対して固定の報酬8,000万円。3割打ちます、ホームラン30本打ちます、という目標設定に対して、達成度が100%なら最大5,000万円という変動報酬が手に入るわけです。達成しなければこの5,000万円の額が下がるしくみになっているでしょう。とてもシンプルでわかりやすいですね。シンプルでいいのです。採用する前にこのしくみを設計しておくだけで採用候補者への制度の説明がとてもスムーズに済みます。

3.どんな人材を雇うのか?

(1) 価値観

射手園さんは自社に人材を迎える際の要素を「ハングリー精神が旺盛な人」「学ぶ気のある人」「柔軟性のある人」「個性的な人」と定義しています。このように自社が求める人材の価値観を定義しておくことは重要でしょう。そして、面接を行う際に応募者の価値観が企業の価値観と合うか否かを判断してください。

(2)役割

ジョブディスクリプションを作成する時にポジションの役割について考えたと思います。ジョブディスクリプションを考えたということは組織を考えたということです。なぜなら、会社全体の役割があり、それを分担するために組織として部門を作り、部門の中にポジションを設けるからです。部門の役割を分担するためにポジションの役割を決めます。ポジションの役割がジョブディスクリプションですね。役割を考える?難しく考えなくても良いですよ。例えば、「走る」「守る」「創る」の3つで考えても良いですね。「走る」は売る役割。「守る」は管理する(会計、総務、システム、人事等)役割。「創る」は商品やサービスの開発ですね。この役割をそれぞれのポジションに当てはめて記述します。主な役割、副次的な役割、そして会社として共通の役割というようにいくつかの項目で記述できると分かりやすいでしょう。この時あまり細かい記述をしないで、そのポジションに中期的に求められる役割を記述します。例えば営業のポジションであれば、「売上を拡大し、利益を向上させる」と言った基本的な役割を記述しておくことが重要です。

役割の中には階層もあります。少なくともEXEMPT(管理職)なのかNON-EXEMPTなのか(非管理職)を定義しないといけません。これは会社が決めるのではなく、法律によって「この役割をするならEXEMPT。そうでなければNON-EXEMPT」と決められています。単に「残業代を払いたくないからEXEMPTにしておこう。そのためにタイトルをマネジャーにしておこう。」というのは通用しません。たとえタイトルがマネジャーであっても、仕事内容がマニュアルで決まった作業だけなら、その仕事はNON-EXEMPTとみなされます。 このようなEXEMPTの扱いを受けながら、単純作業だけをしていたポジションの方が、退職後、勤務していた期間の残業時間を記録していて、後に残業代支払いを求めて訴えを起こしたケースもあります。訴えられれば、過去数年にわたって実質残業時間分の残業代を請求されるということも起こりえます。

(3)コスト

人材の投資も投資対効果を考えることが重要です。人材のコストは報酬の他にも労災や失業保険といったコストやベネフィット等でその人材の報酬の半分程度のコストがかかる場合もあります。それだけの固定費をつぎこんで、一体どれだけの価値のある仕事をしてもらうのか?スモールビジネスにとって重要な役割の70%は売りに関わることだと言われています。この売りに商品やサービスそのものも含まれますから、役割で考えると、まずは「走る」(営業関連)「創る」(商品・サービス開発)役割を担う人材を雇うことになるでしょう。商売も軌道にのってきたから、経営企画の役割も・・・・などと考えるのは止めましょう。経営企画は社長の仕事。経営企画にポジションを設けるのは会社の規模が数百名になってからで十分です。

■Worker’s compensation(労災保険)について

労働者の就業中における「負傷」「病気」「死亡」について雇用者は従業員に対してWorker’s compensation Insuranceでカバーしなければなりません。経営者としては従業員が労災保険を乱用しないように検証を怠らないようにしましょう。過去に多くの対象者がいればいるほど、労災保険の額は大きくなっていきます。

勤務時間中の事故、傷病が対象ですが、ストレスが原因の傷病も増えているので注意しなければなりません。一貫していない経営者の態度やコミュニケーションの欠如、ジョブディスクリプションの不備等で労災となるケースも出てきています。

各企業は傷病防止プログラム作成が義務付けられたため、下記のことを行う必要があります。

これらの作業も人材を採用すると決めた以上、経営者が考えないといけない視点です。
1) 傷病防止プログラム責任者の指定
2) 安全点検システムの作成
3) 従業員に対する安全対策訓練
4) 危険箇所の是正措置
5) 上記記録の3年間にわたる保管

4.報酬の相場は?

大企業では報酬調査を行うのが米国の常識となっています。つまり、応募者が世間相場にとても敏感です。相場を知るためには人事コンサルティング会社に報酬調査を依頼したり、人材派遣会社に問い合わせたりすることもできます。しかし、スモールビジネスの経営者はそんな調査に余分なお金をかけている予算がないとおっしゃるかもしれません。
例えば、インターネットでいろいろな職種の市場調査らしきものを提供している情報がありますので、「参考」にするのもいいでしょう。ここで参考と言ったのは、あくまで調査は参考にしかならず、結果的には経営者がその仕事の報酬を決めるしかありません。商品の価格設定に正解がないのと同じです。もうひとつ重要なのは社内公平性です。もし、社員が二人以上いるのでしたら、その2つの仕事それぞれに納得性のある報酬設定がされているかは後々重要になりますので注意しましょう。

復習しておきます。報酬の設定の時に重要なのは2点。市場の相場と社内公平性の2つです。

5.面接

面接の際には自社の価値観に合った人か?役割に合った人か?報酬の水準は合った人か?ということを見て行きましょう。ここで注意すべきは、米国では面接の際に聞いてよい質問と聞いてはいけない質問があるということです。

してはいけない質問例:年齢、出生地、結婚、家族、人種、逮捕歴等の質問は差別としてみなされますので、注意してください。日本では履歴書に写真を添付するものがありますが、写真の提出を採用時に求めるのも違法です。

一番知りたいのは仕事ができるか?ということだと思いますが、一番効果的だといわれている質問は過去の成功体験や失敗の体験を「なぜ?」「その時どうしたか?」という「つっこみ」をしながら聞いていくことです。高い業績を上げる人材は過去に成功や失敗した時に一生懸命考え抜いて実行しているので、その時の意思決定や行動、その考えに至った背景をとても鮮明に覚えているものです。もし、鮮明に覚えていないとしたら、あまり考えていなかったのかもしれません。

答えた内容が疑わしい場合には「誰かあなたの言ったことを裏付けることができる人と話すことができますか?」と聞き、本人の許可をとった上で照会をしてみましょう。(後に出てくる採用プロセスの経歴照会を参照下さい)

また、EEOCにより逮捕歴を雇用決定の参考にすることは禁じられています。従って逮捕歴に関しての質問はできません。職務に関連がある場合に限り、犯罪歴を聞くことはできます。例えば、銀行の窓口業務をするポジションに応募した人に対して、「横領で有罪になったことがありますか?」等です。

6.人材募集のルート

商品の販売に適した流通があるように、人材の募集にもいろいろな「流通」があります。求人広告、職業紹介(公共・人材紹介業)、エグゼクティブサーチ、学校等。求人広告もいろいろな媒体がありますから、新聞なのかインターネットなのか、価値観、役割、報酬レベル、投資できるコスト等によって媒体は違ってきます。商品の販売促進にいろいろな広告手段があるのと同じです。訴求したいターゲットに届くような流通を選ばなければ、欲しい人材へたどり着くことはできません。例えば工場の作業員を募集したいのに、インターネットの広告を使っても欲しい人材にはたどりつきません。人材紹介会社もそれぞれ得意分野があったりしますから、いろいろ情報を集めてみるとよいでしょう。

7.採用プロセス

採用プロセスを追いながら、採用のポイントを確認していきましょう。

(1) 履歴書による書類選考

履歴書から数名の面接候補者を選考します。履歴書は誇大宣伝も多いので、面接でしっかり確認します。この際、女性やマイノリティ、高齢者だからと言って除外しないようにしてください。ジョブディスクリプションには、仕事に要求される内容を記述しますので、あくまでポジションに要求された内容によって選考を進めることを念頭に置いてください。
尚、下記のことを記入要求することは差別にあたりますので注意してください。

年齢、結婚状況、人種、肌の色、出生地、市民権の有無、国籍、写真の提示、逮捕歴、宗教、軍人経歴、健康状態(身長・体重含む)、組織・組合の加入状況、信条等。

また、履歴書に虚偽の内容や誇張と思われることが書いているあることもよくあります。実際に会って面接によるスクリーニングでこの内容を見極め、さらに経歴照会を行うという方法があります。あるいは、募集の段階から人材紹介会社を使用して専門家にスクリーニングをかけてもらうのも1つの方法です。

(2)筆記試験・面接

面接では上記で指摘した「適切な質問」に注意しながら、求める人材を選考します。

■ 筆記試験

筆記試験の内容も近年変化を見せてきているようです。今までは知識を持っているか否かを測るものが多かったようですが、最近はとんち問題のように思考力を測るものが出てきているようです。

思考力とは特に創造的・論理的思考力を持っているかを判断するものです。筆記試験は出来合いのものもあると思いますが、例えば、実際の現場で起こっている難問について、あなたならどう考えるか?という内容も質問でもよいと思います。その問題に対して創造的・論理的に記述することができるかということが問われます。回答は通常、問題点は何かを提示し、その解決策を記述するわけですが、優秀な人材は問題点を表面的に提示するだけでなく、なぜその点がもっとも大きな問題となるのかという理由を挙げて説明できるようです。問題の裏にある真の問題に迫ろうとする姿勢があります。さらに、解決策も複数挙げた上で、もっとも有効な解決策の選択を示すことができます。実はこの流れは実際のビジネスの現場でみなさんが実行していることです。紙の上で再現できる人が優秀な人なのではないでしょうか。

また、思考力を試すという意味では回答のない質問をするという方法もあります。例えば、カリフォルニア州の価格を算出して下さい。というような質問です。実際にカリフォルニア州に価格などないわけですから、その応募者がいろいろ工夫をして算出根拠を創った上で値段を提示しないといけません。土地、人口、GNP、州のブランドのような無形資産・・・・・算出根拠の創造はいくらでもできます。この質問も実は考えてみたら、実際のビジネスの現場であなたが経験していることです。回答のない質問いかに答えを出すか。毎日ビジネスの現場で経験していませんか?この回答過程で応募者のビジネス力を測ってみてはいかがでしょうか。

■ 英語が話せるか?

ジョブディスクリプションを作成する際に要求される言語については書いておきましょう。その上で、英語でコミュニケーションすることが必要なポジション、日本語でコミュニケーションすることが必要なポジションを明確にしておきましょう。面接の場では、できるだけ仕事の現場で使う英語・日本語の内容が聞けるとよいでしょう。英語や日本語のケーススタディを用意しておくことも1つの方法です。なぜなら、英語・日本語が単に話せるというよりは、仕事の現場でコミュニケーションをとれることが必要だからです。例えば、営業のポジションで、どんなに流暢に英語や日本語を話している方でも、仕事をとってこられるとは限りません。営業のケーススタディを用意すれば、擬似的に営業現場での会話を英語や日本語で演習してもらうことができます。

(3)経歴照会

面接の後、この人材を採用したいと思われたならば是非経歴照会をして下さい。その人材の以前に働いていた職場にその人材の照会を依頼します。その際、応募者の了解をとった上で照会することを忘れないで下さい。以前に働いていた会社には勤務状況や退職理由等を質問します。十分な情報を得られないことはありますが、経歴照会は必ず採用プロセスに入れるようにしてください。

■ ドラッグテスト

もしドラッグテストをする場合は応募者全員に対して行ってください。一貫性のないテストは差別とみなされることがあります。

(4) 不採用の連絡

一方で面接後に不採用になった人には不採用の連絡をしましょう。不採用になった人から「差別で不採用になった」と訴訟されることがないように、今回の募集ポジションの要求にどの点で満たなかったかを説明した上で不採用を伝えてください。仕事の要求に合わないという点がポイントです。

(5) 採用通知(オファーレター)

採用通知には雇用の条件を盛り込んで通知します。米国においては一般従業員と会社の雇用関係は任意の雇用関係(AT WILL)とすることが標準的です。つまり、相互にいつでも雇用関係を解消できるということです。もちろん解雇する場合は差別にあたらないように十分準備をする必要がありますが、基本的には任意の雇用関係になります。従って、雇用契約書を結ぶことはしません。その代わり、オファーレターによって雇用条件を確認し、就業のルールとしてハンドブックを使用するというのが標準的な例です。年収10万ドルを超えるような上位職では雇用契約を結ぶことが多くなるようです。

(6) オリエンテーション

実際に採用となったら、ハンドブックを使ってオリエンテーションです。ハンドブックにはあらかじめ社長の挨拶から経営目標、さらに報酬の取り決めやベネフィットの説明が入っています。このハンドブックを使って会社について説明した上で、その人材を歓迎するという機会にしてください。さあ、新しい仲間が増えましたね。これでビジネスの拡大に勢いがつきます。わくわくしてきますね。

■ 試用期間

以前はProbationary Periodと表現することもありましたが、現在はIntroductory Period, Orientation Period, New Employee Periodと表現することが多くなってきているようです。試用期間を過ぎれば解雇しにくくなるという意味合いを持たせないためです。実際、労働法の弁護士さんの中には「試用期間は解雇しやすいといった誤解があるが、それ自体は解雇に対して何の意味も持たない」とおっしゃっている例もあります。試用期間はあくまで研修期間、その間のベネフィットを会社側が負担する必要はないといったルールを設ける期間と認識しましょう。試用期間であっても通常の従業員と同じようにハンドブックに従って行動してもらい、ジョブディスクリプションに従って仕事をしてもらい、その成果を記録して、適切にフィードバックするというプロセスは変わりません。

■ 労働許可

従業員に労働許可が必要なのは言うまでもありません。違法就労者雇用に対する対応も変更されるようです。今までは必要書類の完備があれば会社はそれをチェックする必要は無く、仮に違法就労者であることが後に判明しても雇用者に責任は求められなかったようです。しかし、今後はコンピューターによる即時チェックシステムの導入により、もし違法就労が発覚すれば雇用者が責任追求される模様です。詳しくは移民法の弁護士さんへご確認下さい。

第2部 業績評価

はじめに~業績評価の目的~

業績評価の話を始める前に業績評価の目的について考えておきましょう。
「昇給額を決めるため」「ボーナスを決めるため」確かにそのような一面もあります。
では、なぜこのように報酬を支払うために評価をするのでしょうか?
「従業員にやる気を出してもらうため」「従業員にもっと成長してもらうため」。
では、なぜこのように従業員にやる気を出してもらい、成長してもらいたいのでしょうか?
「企業として成長するため」「顧客にもっと貢献して満足してもらうため」「企業としての存在価値を上げるため」
等答えがでてきそうですね。突き詰めていくと、企業が存在する意義に結びついていきます。

業績評価の目的をこんな風におっしゃる弁護士の方もいます。「いざ解雇をする時のパフォーマンスの記録として残しておくため」確かにこのような一面もあります。では、なぜこのようにパフォーマンスの記録を残しておくのでしょうか? 「企業を法的リスクから守るため」「企業が支払う賠償金等のコストを最小限に抑えるため」なぜ、このように企業を守ろうとするのでしょうか?
「継続的に利益を上げるため」「企業を継続させて運営していくため」
なぜ継続させて運営するのでしょうか? やはり企業が存続する意義に結びつきますね。

業績評価の目的について考える時、表面的な報酬、やドキュメンテーションの目的だけを見ずに、「企業として成長するためのツールとして」「企業の存在価値を向上させて、存続させていくツールとして」考えてもらうとその意義が違ったものに見えてきます。

業績評価とは言ってみれば鏡のようなものです。従業員が自分の行っていることがどのように進んでいるのかを確認することができます。経営者は自分の会社がどこに向かっているのか確認することができます。さらに、顧客にとって自分の会社はどう映っているのか。投資家にとってはどう映っているのか。企業を成長させていくために、企業の存在価値を向上させて存続していくために、自分の姿がどう動いているのか知るためのツールです。
鏡に映った姿が少し乱れていたら、さっと手を伸ばして、乱れを直しますね。是非あなたの会社でも自分の思っている方向と違うように映ったらそれを修正して、より成長するためのツールとして評価を使ってください。
そして、自分の成長を楽しむ記録として使ってください。悪いところばかりに目が行きがちですが、こんなに素晴らしいところがある!ということに気がついたら自分を褒めてあげて下さい。従業員を褒めてあげてください。GOOD JOB! と祝福してあげることこそ、成長の原動力になります。

■社員の戦力化としての業績評価

仕事のモチベーションの源泉は何か?米国、日本に限らずこういった調査をするとマネジメントは「報酬が一番の動機付けの源泉ではないか?」と結果を想像しています。しかし、結果を見ると従業員は違う答えを出します。報酬も動機付けの源泉に入ってきますが、一番ではありません。それよりも非金銭的報酬、「自分のキャリアにとってプラスになる仕事をすること」「社内外で認めてもらうこと」「(特に技術者が)最高の技術環境で仕事ができること」等の答えが上位を占めます。

業績評価もやる気を出してもらうため、社員の戦力化を考えるなら、「その人材にとってキャリアを築くことを支援するためにはどのようにしたらよいのか?」という視点で考えてみたらどうでしょう。本人のキャリアのことも考えて、目標を立てて、評価をして、フィードバックをしてみたらどうでしょう。そして、GREAT JOB!という仕事をしたら、社内で表彰しましょう。ボーナスで報酬を支払うことも重要ですが、最高の環境で開発ができるように機器に投資しましょう。社員の戦力化を図るために業績評価を上手く使ってみてはいかがでしょうか。

1.能力と成果~日本と米国の違い~

ここ数年日本の新聞を賑わした言葉に「能力主義・成果主義導入」という言葉があります。まるで能力主義と成果主義を同じもののように並列に書いているところを見ると、新聞記者の方には申し訳ありませんが、ほとんど能力と成果の区別がついていないようです。能力というのは物事を成し遂げることのできる力、ですから、もしやったらできる力を能力と呼ぶわけです。一方で、成果は成した結果ですから既にできたことなんですね。時間軸が全然違うわけです。

日本の人事制度は基本的に能力主義評価をすることで戦後長年やってきた企業が多いはずです。だから、人事考課というと「積極性がある」「協調性がある」といった能力を評価することが多かったのです。積極性がある、というのは積極性があるかもしれませんが、実際に積極的に何をしたかは問われていないわけです。

一方、米国で評価というとパフォーマンス(成果、あるいは業績)を測るのが一般的です。何をしたかという結果を評価するわけです。「売上を上げた」というのも成果ですし、「会計システムの導入を全社に行った」というのも成果です。行った結果を見ているわけですね。
能力と成果の違いは「これからする」ということと「既にやったこと」という時間軸が違います。言い方を変えると、能力は目に見えないが、成果は目に見えることなのです。目に見えることを評価するのが米国式と考えましょう。

なぜ米国では業績評価、成果評価が浸透したのでしょうか。大きな要素としては差別の問題と公民権法の成立があると思います。人で評価をすると差別になるので、ジョブディスクリプションのような仕事で役割を決めて、仕事をやった結果(業績)という事実によって評価する。人を評価すると差別と疑われる可能性があるからこそこのような評価方法が発展したのではないでしょうか。もう一つには、目に見える結果で評価すると納得性が上がります。なぜその評価になったか理由が明確に示せるからです。日本の感覚で言う「そのくらいのことは言わなくてもわかるだろう」というコミュニケーションでは米国での評価は難しいでしょう。

2.評価の前提となるジョブディスクリプション

業績評価の話を進める前に、人材採用のところでもお話したジョブディスクリプションを思い出しましょう。ジョブディスクリプションはポジションごとに仕事の役割を定義するものでした。最近の傾向として、ジョブディスクリプションはできるだけ総合的に柔軟に書くようになってきています。そして、中期的に実現すべき「内容」が書かれています。この内容をベースとして具体的に今年は何をやるのか、短期的に実現すべき「目標」を決めるのが目標設定です。この目標設定の達成度を測るのが業績評価の1つの方法です。つまり、ジョブディスクリプションで定義した役割が評価の前提になっているわけですね。

また野球の話で恐縮ですが、日本ハムの新庄選手の役割は日本ハムの4番バッターとしてチームに得点をもたらすこと。今年1年間の出来高という目標を「打率3割、ホームラン40本」という具合に具体的に目標設定します。そして、結果として実現できたかどうかが業績評価です。見事打率3割達成して、ホームランを40本打ったら、目標を100%達成したということです。

3.目標設定

新庄選手の例でご紹介しましたが、業績評価を行う方法で、広く普及しているのはMBO ( Management by Objectives )です。目標による管理、目標管理と呼ばれます。日本ではMBOという言葉も浸透してきているのではないでしょうか。
この業績評価の手法をうまく使いこなすコツはすべて目標設定にあると言っても過言ではないでしょう。目標設定は、まず会社の目標から設定していきます。会社の目標が決まっていなければ、「各部門がどんな目標を持って仕事を進めるべきか」「各部門にあるチームがどんな目標を持つべきか」「チームの中にいる個人がどんな目標を持つべきか」すべて決まらないのです。だからまず行うことは社長自身が会社の目標を大きな紙に書いて、会社の目標を決めることです。
会社の目標=社長の目標を決めることによって初めて、各部門の目標にブレイクダウンができるようになります。

■ミッション・ビジョン・バリュー

社長の目標に触れましたので、目標と関連するミッション、ビジョン、バリューについて紹介しておきましょう。目標設定というと単年度の目標を指すことが多いですが、社長の目標=会社の目標は単年度の目標だけではありません。ビジネスをすることによって結果として何を成し遂げるのか?その会社の存在意義は何なのか?その会社のミッションについて、確認し、社員の方に伝えましょう。ミッションはハンドブックに掲載してあるはずですね(第一部を思い出してください)。年間目標を設定する際には、社長からハンドブックも社員に持参してもらい、改めて、自社の存在意義を確認するよい機会です。さらに、ビジョン(私はわかりやすいように3年後の数値目標と定義しています)を年間目標と一緒に伝えてあげると従業員に今後会社が目指す方向が伝わります。今年の目標は3年後の会社の成長に向けての第一歩だと理解してもらいましょう。そして、バリュー(行動目標)です。例えば、儲かれば何でもしてもいいのか?そんなことはありませんよね。「倫理観を持った行動をする」という行動目標を浸透させるということが考えられます。他には「他人を勇気付ける」という行動目標を置いている会社もあります。具体的にこんな風に行動してほしい、というメッセージはどんな働き方をしてほしいか、というマネジメントからのメッセージになります。

4.SMARTな目標設定

SMARTな目標設定、聞いたことがありますか?
SはSpecificのS
MはMeasurableのM
AはAchievableのA
RはRealisticのR
TはTime-BoundのT

S:目標は具体的に。例えば、売上を拡大する、だけでは曖昧ですね。どの商品を、どの地域に、どれだけ売るのか。できるだけ具体的に目標を設定しましょう。
M:目標は測定可能にしましょう。売上は目標設定が簡単なんだ。よく言われますね。(私はそう思わないので、この項目は後ほど)

では会計を担当しているスタッフの目標はどうしたらいいのでしょうか?能力と成果のところで述べましたが。目に見える結果がわかるような目標を設定するのが鍵です。例えば、売掛金の回収支持を毎月15日にすべて(測定可能!)の営業担当者に報告する。営業担当者からの回収問い合わせの件数を現状から10%削減(測定可能!)する。どんな仕事もかならず測定が可能です。測定できないものはマネジメントできないと言い切った人もいます。測定をすることができずに、どうやって上手くいっているのか、いっていないのかを判断するのか?ということです。事務系の仕事では仕事がうまくいけばこの数字が変わるはずだ、という仮説を置く事もできます。例えば、システム部門がマニュアルを作成して配布するという目標があった時、実際にそのシステムの全従業員の使用頻度(例:年間30回/人)とシステム部門への問い合わせ件数(例:年間50回以内)といった目標項目が考えられます。仕事が上手く動いていたら、システムの使用頻度は上がるはずだ。マニュアルが機能していれば、システム部門への問い合わせは減るはずだ。という仮説の基に数字を設定するわけです。「もしこの仕事がうまく行ったらこの数字が上がるはずだ」といった仮説はビジネスの構築力そのものが問われます。人事を単に人事の評価システムとしてだけ捉えないでください、と言っているのはこのようなビジネスの構築力そのものが人事評価のしくみで問われるからなのです。

R:会社の目標→部門の目標→チームの目標→個人の目標
これらの目標が連鎖した関係を持って設定されていますか?日本で目標管理制度が導入された時に、「自分で目標を設定するからコミットメントになる」というところにばかりフォーカスがあたったせいか、「個人個人が勝手に目標を設定する」。しかも「日常の業務とは関係ない特別の目標を設定しないといけない」といった迷信のような思い込みがかなり深く浸透しています。業績を評価するのですから、会社と関係のない自己啓発のようなものを目標設定してもあまり意味がありません。「工場の労働者は日常業務以外にチャレンジングな目標を設定できなくて・・・・」いえいえ、日常業務こそ、最も目標設定すべき、仕事のコアになるものではないでしょうか?

T:時間軸を持つ。
目標設定を1年単位で行うとすると、1年後の状態を目標設定します。「1年後にはこの会社をこんな風にしたい」それが目標になるわけです。では、1年後にその状態になるには半年後に少なくともどのような状態になっていないといけないでしょうか?半年後にそうなら第一四半期が終わったところでどうなっていけないでしょうか?では1ヵ月後は?1週間後は?今日の夕方は?
実は今日の目標が1年後の目標につながっているのです。

「会社を1年後にこんな状態にしたいんだ」これほど重要な目標設定をブレイクダウンして各社員が目標設定をしたのに、その目標を書いた紙は1年に1回、多くて2回しかみない。そんな方はいらっしゃいませんか?目標を人事評価の儀式としてしかみていないからでしょう。これほどもったいない目標の設定の仕方はありません。大事な目標なら、それをどうやって実現するか、毎週、少なくとも1ヶ月に1回はモニタリングしてみたいと思いませんか?今自分はどこまで目標に近づいたのか?気になりませんか?目標設定を儀式にしないで下さい。週間ミーティングで「1年後の目標に近づいているか」、「半年後の目標に近づいているか」、「クオーターの目標に近づいているか」、是非とも日常業務の中に組み込んでチェックしていってください。これでも人事評価は主要な業務と関係ないとお考えですか?

5.業績評価のプロセス

それでは、採用の時と同じように業績評価のプロセスを追いかけてみましょう。
〇前提としてジョブディスクリプションを作成しておく
(1) 会社の目標を決定する。
(2) 会社の目標に従って、社長の直属の部門長が、ジョブディスクリプションに沿った
目標を自ら設定する。
(3) 社長が部門長への期待目標を持った上で、部門長と面談をする。
(4) 社長と部門長が目標に合意する。
(5) 次に部門長とその部下が(2)~(4)と同じく自ら目標設定した上で上司と面接して合意の上、目標を決定する。(組織の全ポジションの方が同様に行う)その際、常に会社の目標、部門の目標との整合性を保つように注意する。
(6) 中間チェックや日常のフィードバックを行う。
(7) 必要に応じて部下を教育する。
(8) 面談を通じ、上司と部下が話し合った上で、期末評価を決定し合意する。
上司は部下の仕事における良い点、悪い点をお互い確認し、来年どのようにして
さらに改善するかを建設的に話しあう。

プロセスの中でいろいろ疑問が出てきますね。その疑問にお答えしていきましょう。

■ 誰が評価するのか?

評価は基本的に上司が部下を評価します。しかし、射手園さんから教えていただいた事例を伺っていても、どうも本来の評価の目的を見失って、単なる欠点発見ツール、もっと悪く言うと社内ポリティクスの権力乱用ツールにされてしまっている例が出てきているようです。
このような時、ハンドブックを作成する時に最近よく書かれているオープンドアポリシーが活きるようにしておいてください。つまり、従業員からの苦情が常に経営者の耳に入るように意見が伝わるしくみを作っておくことです。また、人事部(Human Resources)の部署の担当者も常に評価結果についての疑問を受け付ける体制をとっておくことです。しくみとして導入するには年に1度、年に2度という具合に人事部が従業員全員に上司の評価についての意見を収拾するしくみを持っておくとよいでしょう。簡単なアンケートを実施してください。もし、社内の人事部ではホンネが聞けないというのでしたら、第三者に依頼するのも1つの手です。疑問を受け付けた場合は「事実」としてのパフォーマンスが評価されているか否か人事担当者は調査をすることが必要です。そして、必ず結果をフィードバックすることが求められます。

また、ハンドブックには権力を盾に評価を悪くして嫌がらせをしたりすることはハラスメントとして認識されるので強く禁止することをセクシャルハラスメントと合わせて記述しておくことをお勧めします。

■ 所詮人間が人間の評価はできない

人間が人間の評価をする必要はありません。人間が仕事の評価をしてください。仕事は誰がやったかに関係なく、結果として明らかになります。その仕事を評価してください。そして、その仕事の達成度をパフォーマンスの記録として残して行って下さい。あくまでも仕事を評価して記録を残すことが差別として訴えられるリスクを軽減させます。いざ、解雇となった時、「理由はその人間(年齢、性別、人種等)によるのではなく、仕事のパフォーマンスが悪いからだ。なぜならこのように業績評価が推移している。」ときちんと文書として説明できることが必要です。

■ プロセスは評価しないのか?

成果、業績といった結果を評価する方法を紹介すると、必ず聞かれる質問がプロセスは評価しないのか?といったことです。「せっかく頑張っているのに売上の結果にむすびつかない。でも努力を評価してやりたいけど、どうしたらいいのか?」とよく質問を受けます。端的に言うと、「結果だけを評価してください」ということです。がんばったかどうか、というのは印象であって、誰の目にも見てあきらかなことではありません。もしがんばったというプロセスを評価したいなら、そのプロセスの目に見える結果について目標設定し、評価することです。例えば、「売上を10%拡大する」、ということが結果だとすると、「お客さんに週に6件訪問する」というのはプロセスの結果です。この顧客訪問数を目標に設定すると、売上拡大に至るプロセスも結果として評価できることがわかります。でも、決して頑張っているか否かというものでなく、SMARTな目標を設定することが必要です。ここでも仮説が出てきましたね。例えば、「週に6回訪問することで、結果としてそのうち10%と成約できて、平均単価を○○ドルとすると、売上が10%拡大するはずだ。」というのが仮説です。結果には必ず結果に至る「目に見える」プロセスがあるので、その点を目標設定し、評価することが必要です。

■ 評価レベルを考えた目標設定

目標を設定する時に評価のレベルを確認しておくと評価の時に納得性が高まります。例えば、評価を1~5の5段階で評価するとします。売上1ミリオンの目標達成で評価は3。と決定したら、売上1.1ミリオンで4、売上0.9ミリオンで2というように目標設定の時に評価レベルを確認しておくのです。納得性を高めるコツは目標設定にあります。

■ 営業の目標は簡単か?~問題解決のための目標設定~

営業の目標設定は簡単。よく聞かれることですね。しかし、実際にはそれほど簡単ではないと思っています。単に売上1ミリオンと目標設定して「さあ、あとは頑張れ!」では、ひたすらがんばるしかない。個人技に頼っているだけでは会社として、売れるしくみを構築することになりません。

そこで、営業をプロセスに分けて考える。例えば、集客→見込み客フォロー→クロージング→継続顧客化というように営業にはプロセスがあります。このそれぞれのプロセスにおいて、目標設定をしていくのです。例えば、集客するために何をいつまでにどこまでやらないといけないのか、具体的に数値を設定していきます。例えば、見込み客のフォローのために、「必ず1週間に1度コンタクトをとる。」といった目標を設定します。このように各プロセスに目標を設定して、その後の結果を追いかけていきます。

すると、実は一人の営業担当者がこれらのすべてのプロセスに関わっていると、それぞれのプロセスに時間をとられて思うように顧客が訪問できない、といった問題がわかってくることがあります。つまり、最初は仮説として「うまくいくはずだ」ということで立てた目標がしくみとして成り立たないかもしれないとわかることがあります。

このような時は、対策を打ちましょう。プロセスごとに担当者を分ける、というのも1つの対策です。そして、このような対策の結果、目標も変更する必要がある場合には期中であっても上司と部下の間で面談をして合意をもって目標を変更することが必要です。この必要に応じた目標の変更はモチベーションを維持するために必要なことです。

もう少し問題を追及していきましょう。十分顧客を訪問できないとはどういうことでしょうか?そこで、今度は顧客との面会時間をどのようにして増やすことができるか、と考えます。例えば、営業担当者の時間は大きく分けて3つの分類ができます。それは顧客との面会時間、移動時間、社内作業時間の3つです。このそれぞれの時間の使い方を目標設定することができます。例えば、面会時間60%、移動時間10%、社内作業30%という具合です。これで時間を記録していくと、驚くほど移動時間が多くなっていることに気づいたりします。
会社にとって重要な売上はどこから出てくるのでしょうか?それは顧客との面会時間です。移動時間をどれだけ増やしても、その時間からは決して売上は上がってきません。では、面会時間を増やすためには、どうしたいいのか・・・・・・例えば、地域の集中化ということが考えられます。顧客の地域分散が激しいために、どうしても移動時間が多くなりすぎることがあります。そこで、営業地域を絞り込み、集中させることで面会時間を増やす。射手園さんのおっしゃる「回転率」を上げることに専念してみましょう。

このように目標設定をビジネスのプロセスを考えながら行うと、それ自体が問題解決のツールとして使えるようになります。是非、十分活用されることをお勧めします。

■4つの視点で考える

目標を考える時にいったいどんな目標を立てたらいいのか?と質問を受けることがよくあります。ジョブディスクリプションを基にして目標を設定すればいいのですが、なかなか何を目標設定するのか困っている方が多いようです。
例えば、(1)目標設定を財務目標、(2)顧客にかかわる目標、(3)社内業務の目標、(4)人材育成の目標という4つの視点で考えてみたらどうでしょう。まず売上(財務目標)を拡大しないといけない。さらに売上を上げるためには顧客に満足してもらう必要があります。顧客に満足してもらうためには、社内業務をしっかり回さないといけません。社内業務の目標を達成するためには、人材を育成・研修しないといけません。このようなロジックが上記4つの視点には隠れています。この4つの視点で目標を考えると、経営の重要な要素を盛り込んで目標を設定することができるでしょう。

■ 成果主義の落とし穴

射手園さんによる「成果主義の落とし穴」についての解説です。実際の運営の場面で是非参考にしてください。
0. 成果主義とは
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=200409061100000000109759000
1. 成績優秀者のマンネリ
2. 駄目な人間の脱落
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=200409081100000000109759000
3. 社員相互のコミュニケーション低下
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=20040910110000000010975900
0

第3部 昇進、昇給、解雇

1.昇進と昇格

昇進と昇格はどこが違いますか?英語ではpromotionとしか言いませんが日本語には昇進と昇格の2つがあります。昇進とは組織の中でポジションが上がること。米国でのPromotionと基本的に同じだと考えていいでしょう。では、昇格とは何でしょうか?日本では職能資格制度が浸透していたがために、資「格」だけが上がる「昇格」があり得るのです。例えば、昨日も今日もまったく同じ営業の仕事をしているのに、ある日主任から主査に「昇格」し、給与が上がる、ということが日本では起こりえます。ポジションも変わらない、タイトルも変わらない。しかし、資格が上がったので給料が上がるということです。

昇進はポジションが上がるという「仕事」がベースの考え方であるのに対し、昇格は資格が上がるという「ヒト」がベースの考え方です。第1部から何度か触れてきましたが、この仕事ベースの考え方とヒトベースの考え方の違いを認識しておくと、米国の人事は格段にわかりやすくなります。繰り返しになりますが、公民権法の成立により米国では仕事をベースに報酬を決定しないと差別と考えられる可能性が高まりました。そこで、「仕事」をベースに運営する人事制度が浸透していったと考えられます。

2.昇進の使い方

ここまで読んでいただけると、昇進は組織上のポジションが上がることだと分かりましたね。米国で昇進といえば、空きポジションができた時にひとつ上のポジションへ上がることです。あるいは新しい上のポジションができた時にその上のポジションへ上がることです。昇進の仕方ですが、まず空きポジションができるか、新しいポジションができる、というのが前提です。それから空きポジションに昇進する人材候補を挙げます。

この時、空きポジションが出来た時点で社内に空きポジションへ応募したい人材を募集するのもひとつの方法です。公募制です。公募制を行う際には、全従業員を対象に公平に募集することが重要なポイントです。空きポジションのジョブディスクリプションが明確であれば、そのジョブディスクリプションに合わせて選考を行うことができます。

募集の結果集まった人材から空きポジションにふさわしい人材がいるか否か選考する方法を1つご紹介しておきましょう。評価軸は例えば、「過去の成果」と「将来の潜在可能性」の2つの軸で測ることができます。まず過去の成果が高い人材を候補者として、選抜します。そして、過去の成果が高い人材の中から新しいポジションにふさわしい「潜在可能性」を持ったヒトを選抜するわけですね。

潜在可能性とは上のポジションに上がってもやっていけどうか、どうか、という判断基準です。この潜在可能性は第2部の■ミッション・ビジョン・バリューの項目で述べたバリューに定義されるような日頃の行動発揮度合を評価して判断します。例えば、一人で営業をやっていて高い成果を上げる人材が、営業マネジャーの役割を担って同じく高い成果を上げるかどうかはわかりません。プレーヤーとマネジメントの違いが出てくるわけです。プレーヤーに求められる行動とマネジメントに求められる行動とを抽出し、その違いは何かを明確にした上で行動基準やその評価が行えると、潜在可能性が評価しやすくなります。「過去に具体的に○○という行動がとれたので、潜在可能性があると判断し、選抜しました。」と明確に説明できることがポイントです。

島津製作所でノーベル賞をとった田中さんが、ずっと主任の研究員でいたかったというように、自ら気づいてプレーヤーとしての道を選ぶ人もいれば、昇進にチャレンジしようとする人材もいます。自分がどちらのキャリアに合っているか、気づきを得られるように行動を評価してあげるしくみを造りたいものです。

■昇進について射手園さんにインタビュー

-射手園さん、今までいろいろと昇進についてご経験されていると思いますが、どのように運営されていますか?

「昇進は、本人にとっても、ものすごく嬉しい出来事です。 実績が認められた事、これからの自分のディメンションが広がっていくという希望、自分の報酬がアップするという喜び、自分のキャリアがアップし、次ぎにより良いチャンスを掴む基盤ができた事、等などうれしいことがつまっています。」

-本人にとっては嬉しいことばかりですが、会社にとってはどうなのでしょうか?

「会社にとっても、彼がこの昇進によりモチベーションを高め、業績アップへの貢献を期待できます。 かつ、彼と同じような背景を持つ社員が昇進すれば、自分にもチャンスがある、そう信じさせる効果があり、全体的に見ても一人の人間を昇進させる事の意義があります。」

-今までプラスの面ばかり見て参りましたが、マイナスの面はどんなことが起こるでしょうか?

「一人の昇進が会社内に悪影響を及ぼすことがあります。どのような影響かといいますと、昇進できなかった社員は、
【何故彼が? 何故自分ではないのか?】
【あの人の下で働くのはいやだ。】
【あの人の下で自分のキャリアを伸ばしていくことができるだろうか。】
どのような人を選んで昇進させても、そのようなといった思いを抱く人がでてきます。
そして、その原因をボスの良し悪しの判断として使ってしまうのです。
給料、会社の知名度より、自分のキャリアーのため仕事をしている人間にとってはボスの良し悪しは深刻な問題になります。 このような状況が見て取れる場合には、会社はすぐ手を打たなければなりません。」

-具体的に会社の対応とはどのようなことでしょうか?

「まずは、なぜ彼が昇進したのかという理由を明らかにすべきです。あるいは昇進するときの基準を明確に公表して、その基準をクリアした人物が該当した彼・彼女であることを伝えましょう。また、ボスの良し悪しの判断になってしまうと、不満を持っている本人にとっても、ボスにとっても悪影響を及ぼします。経営者としては、基準を満たすことによって、公平に次のチャンスがあることを広く従業員に伝えます。そして、該当のボスには本人が不満を持っていることに対して、明確に伝え、日頃のフォローコミュニケーションをしっかりすること。本人のキャリアーを考えて、今後の方針についてどのように考えているかを本人に伝えること。昇進の対象からは漏れたとしても、その本人が成果を上げていることについて、はっきりと認めてあげることが大切です。経営者としてはボスが悪いから昇進できないのだ、ということではなく、会社としての決定であったということを公表し、ボスが悪者にならないように配慮をすべきでしょう。これらのことを行うには本人が不満に思っているという情報を把握しなければできません。この情報を把握するところが日頃のコミュニケーションや従業員調査が必要になる部分でしょう。」

-昇進した本人は良いことばかりでしょうか?

「ライフスタイルチェンジが要求されます。 スタッフとしての社員の場合、働くだけでよかったのですが、マネージャー職になると、余計な仕事が増えます。そして、その余計な仕事が従来のライフスタイルに食い込んでくる場合があるのです。
例えば・・・・・・・
仕事を家に持ちかえることが多くなります。
特別な資格を取らなければならなくなります。
社外研修を要求される様になります。
アラーム会社からの緊急時の連絡先になったりします。
ビジネス存続に必要なライセンス取得を要求されます。

今までのバディバディ関係者から敬遠され、対人関係アジャストの必要がでてきます。金銭的損得が発生、そのアジャストで悩むことになります。 例えば、コミッションで稼ぎまくっていたセールスマンが他の営業所のマネージャーに昇進すれば、既存のコミッションを失う損害が発生します。 ある日本の会社がこの為訴えられ、敗訴、大金を損害賠償として支払う羽目になってしまいました。昇進イコール転勤になると、その損害、家族問題(子供の教育、親の面倒見など)で悩むことになり、ビジネス上自宅でのパ-ティ開催、接待が増える事により、配偶者との折り合いの問題も発生します。そして、最も実際的問題として、昇進に伴い責任が増えるわけですから、新しい役割に適正でないという疑問出る可能性も増えます。詰まり、首になるチャンスが増えるという事にもつながります。私の知っている例では、ある人間を辞めてもらうようにする為昇進させ、彼はその新しい職責を果せず、短時間に辞職してしまいました。内情を知る人間としてみると会社の作戦勝ちですが、そのような事出なくても、昇進したが故、本人の希望とは裏腹に会社を辞めざるをえなくなる人はでてきそうです。」

-なるほど。昇進した本人はお話を聞くだけで大変な思いをすることが想像できます。こうした本人にはどのような対応が必要でしょうか?

「経営者や昇進した人のボスがとても重要です。上に挙げた例のように辞めさせることが必要であれば、問題ないのですが、もし、期待していた場合には本人が上位ポジションに対応できないと会社の業績にも大きな悪影響を及ぼします。
まず、昇進させる前に、昇進した場合の上司の働き方やライフスタイルを見せておき、どのような生活が期待されるかをあらかじめ予想させておくことは大事です。なかなか明文化できない部分もあるでしょうから、実際に昇進するポジションについている上司との行動を意図的に増やすなどの行動が必要になります。
また、実際に昇進した後は、そのポジションに対応できているか否か、定期的にコミュニケーションが必要になります。上司が昇進した人と定期的にコミュニケーションをとることも必要ですが、経営者も積極的に話をする場面を設けてあげることです。また、上司や経営者直接ではなく、同僚や部下から入る情報はとても重要です。仕事だけでなく、ライフスタイルに関して、昇進してからも大きな変化に悪影響を受けていないかチェックすることが必要になります。経営者は上位ポジションの経験者としてアドバイスをしてあげてください。」

-昇進させる時には多くの個人的背景も考えた上で実施しないといけませんね。

「結論からすると、昇進とは単に個人の適不適問題にとどまらず、全社員と会社自身を巻き込んだ問題であり、その波及効果が大きいものだけに、期待と心配が織り成された一大イベントであるという事ができます。人が人を評価しなければならず、その評価基準に完全なもの等ありえず、況して、その適用において個人の恣意介入の余地がある事実を知れば知るほど経営者は当然起こり得る事態にたいして予め対応策を立て事にあたる事をおすすめします。」

3.昇進・報酬レンジ・モチベーション

米国ではポジションごとに報酬レンジを設けるのが一般的です。報酬レンジについて少しお話しておきましょう。

■ 報酬レンジ

米国の報酬制度はとてもシンプルだと思います。私は2つのPで考えてくださいと言っています。PositionとPerformanceの2つのPです。Positionによって決まるのが固定報酬。Performanceで決まるのが変動報酬です。
Positionによって決まる固定報酬では、Positionごとに報酬レンジを設計します。例えば、Accounting ManagerのPositionは固定報酬を最低40,000ドル~最高50,000ドルのレンジ幅で処遇する、というように設計するわけです。このように固定報酬の上限を設定すると、固定報酬を大きくジャンプアップさせるには、上位ポジションに就いていくしかありません。

報酬レンジの例

50,000ドル

中央値

40,000ドル

尚、報酬レンジを決定する要素は社内公平性と社外競争力だと申し上げました。ジョブディスクリプションを整備して、仕事の役割の大きさに見合った(社内の秩序を保って)報酬を支払いましょう。また、社外の報酬データを参考にした上で、報酬レンジを決定しましょう。ジョブディスクリプションが整備されていれば、同様の仕事内容で、同地域、同産業、同規模の企業がどれだけの報酬レベルで同等のポジションを処遇しているかが調べられます。このレベルを確認した上で、報酬レンジを決定します。

さて、昇進に話を戻しましょう。報酬をモチベーションとして考えると、固定給を大きく上げるためには、報酬レンジが上のレベルになるポジションに就くしかありません。空きポジションができたり、新しい上のポジションができないと上のポジションにもつけません。人ベースのしくみに慣れている日本人の人は、ではどうやって、同じポジションの人を動機付けていくのか?という質問をよく受けます。日本ではポジションが変わらなくても資格がどんどん上がっていけば、報酬は上がっていました。報酬レンジがあると、天井に来た時に一挙にやる気を失うのではないか、という疑問が出てくるのだと思います。

そこで金銭的報酬として動機付けを保つのは、ボーナスのような変動報酬です。固定報酬にレンジが決まっていて天井まで来てしまったとすれば、報酬としての動機付けは、変動報酬です。この変動報酬の決定には第2部で説明した業績評価を使用します。ポジションの階段を上っていくだけでなく、同じポジションであっても毎年の成果によって変動報酬が手に入るというしくみを作っておきましょう。

4.昇給

報酬の話になってきましたので、昇給について考えておきましょう。ポジションごとにレンジを設けるとすると昇給はどのようにして決めるのでしょうか?常にマーケットを意識する米国としては、消費者物価指数などの一般的な昇給率や自社と同業界・同地域・同規模の企業で同じ仕事内容のポジションがどのような報酬の傾向になっているか市場のデータを確認しておくことは必要でしょう。
その上で昇給のテーブルを組みます。

昇給のテーブルは全社員一律になるように作成するのではなく、業績評価の結果に連動するように作るのが一般的です。例えば、下記の表のように横軸に評価結果をとります。評価結果を1~5にしたとしましょう。その結果によって昇給率が変わるわけです。また、縦軸にあるように報酬レンジの位置づけによってその昇給率が変わります。報酬レンジの下にいる人は同じ仕事の範疇でも比較して報酬が低いところに位置しているので報酬が上がりやすくなります。一方で、報酬が高いところに位置する人は既に高いレベルの報酬をもらっているので上がりにくくなります。こうやってレンジの中に報酬がおさまるようなテーブルを作るのが一般的な昇給テーブルのしくみです。下の表ではレンジ位置の中間点を1とした場合の比率を縦軸にとっています。%はサラリーの昇給率例です。

●昇給テーブルの例

評価結果
レンジ位置
1
2
3
4
5
1.2より上
0%
0%
0%
2%
3%
1.1-1.2
0%
0%
2%
3%
4%
0.9-1.0
0%
0%
3%
4%
5%
0.9未満
0%
2%
4%
5%
6%

■ ボーナスのテーブル

昇給テーブルをご紹介しましたので、ボーナスのテーブル例もご紹介しておきましょう。横軸は昇給テーブルと同じく評価結果ですが、縦軸は企業業績をとっています。この企業業績によってボーナスの%(固定給を100%とした場合の%)が変化します。企業全体の原資を考えた上で、このテーブルを作成します。どの評価結果に何人の従業員がいるかということもボーナスの原資を考える際には考慮しないといけません。

●ボーナステーブルの例

評価結果
企業業績
1
2
3
4
5
120%以上
0%
5%
10%
15%
20%
110~120%
0%
2%
5%
10%
15%
100~110%
0%
0%
3%
5%
15%
100%未満
0%
0%
0%
5%
10%

■昇給について射手園さんへのインタビュー

-昇給について射手園さんのご経験を伺いたいと思います。

「昇給は社員にとってとても嬉しい事です。これでやっと一息つける!ローンが組める!ですから各家庭では昇給をまちのぞんでおります。然し、その昇給額が具体的になると、必ず不満を唱える人があらわれます。 自分の働きに対する評価が成されていないと感じるわけです。昇給時、このような事情から、一時仕事に支障が現れる事があります。」

-昇進の時と同じように評価についての不満が出てくるわけですね。昇進の時と昇給の時では対処の仕方は違いますか?

「昇給は昇進の時よりも会社全体に対する悪影響のインパクトは少ないと思いますが、その時の不満をしっかり受け止めて、かつしっかり説明できるとよいですね。なぜそうなったのかを説明できないといけません。さらに、不満の基をたどると上司がきちんとその評価を進めていない場合があるので、その警告として経営者が受け止めることが必要でしょう。不満は問題点のシグナルとして活用してください。」

-会社が注意しないといけないポイントは何でしょうか?

「一方会社にとって、昇給するためには、会社に其れだけのファイナンシャルリソースがある事、ビジネス基盤のある事が条件です。 然し、会社の資金力、業績とは別に、世の中の動き、経済の動きと言うものがあり、そのなかで会社は昇給と言う行為を実行していかなければなりません。 最低賃金の年々のアップ、其れに伴うドミノ現象、増税、新税、大事件、労働組合の結成などなど、予期せぬ諸々のことが発生、その為、昇給の資金枠を圧迫されるような事が発生!おかげで経営者は頭を痛める事になります。 何故なら、アメリカの様に流動性の高い国、個人のキャリアー志向の国にあっては、より良い仕事環境を求め人はドンドン移動していくからです。その人の能力、力に応じて支給、優遇できなければ、人は去っていってしまうのです。人材がビジネスの将来を作り出す、という絶対の事実を満たせなければ、ビジネスは競争力を失い、消滅への道を歩まざるをえない、其れを知っているからこそ、経営者は頭が痛いのです。」

-原資をどう割り振るかという問題でしょうか?

「恐らく、これには回答はないと思います。常に経営者は、利益をどのように配分すべきか迷います。従業員への昇給、ボーナス。企業自体への開発等の投資。投資家へのリターン。その割合をどう決定するかは経営者の腕にかかっていると言って過言ではありません。」

―射手園さんの昇給に対する割り振りの考え方は?

「結論を言うと、昇給はドンドンすべき、其の為には全社員に精一杯頑張ってもらう事の出きる活躍の場を作り出す事、そうすれば、思い切った昇給も可能であると思います。」

5.解雇

最初に申し上げておきますが、解雇は難しい問題です。ここでは一般的な準備すべきことをお話しますが、かならず専門家にご相談されることをお勧めします。進行状況によっては我々人事コンサルタントでは手に負えない場合もありますので、労働法の弁護士さんに相談されることをお勧めする場合もあります。

(1) 会社に必要なものは揃っているか

解雇は常に訴訟を起こされるリスクをともなって行う必要があります。雇用者と被雇用者はAT WILL の関係にあるというのが米国の雇用の根底にありますが、いざ解雇となると訴訟を受ける危険性があることを念頭に置いてください。訴訟のリスクをできる限り押さえるには、解雇する正当な理由を整える必要があります。正当な理由を裏付けるものは明確なルール、誠実な従業員の取り扱い、公正な評価と適用、書面化された記録等です。具体的に以下に挙げてみていきましょう。

A) ハンドブック
従業員ハンドブックを是非用意してください、というお話は第一部採用の項目で述べましたが、解雇の際にもハンドブックは重要な基本書類になります。解雇には理由があるわけで、どのような問題が起こった場合に解雇になるかをハンドブックに記載しておくことが求められます。例えば、問題を起こした時に、最初は口頭の注意。その後修正されない場合は数回の文書による注意(Warning letter)。数回の文書による注意を経ても改善されない場合は停職、降格、解雇に至る。と段階的な懲戒の手順を踏むこと(プログレッシブ ディシプリン)を記載しておいてください。

参考までに弊社のWebニュースをご覧下さい。
http://www.imaconsulting.com/japanese/hrflash4.html

B)ジョブディスクリプション
解雇する時に仕事の役割に応じた働きをしていなかった、というのはよくある事例です。しかし、その役割がどんな役割であったのかを明確に示していなければ、実際に役割を果していなかったかどうかという証拠の根拠になる資料がありません。ジョブディスクリプションは必須の資料となります。

C) 業績評価
前述のプログレッシブディシプリンの記録はもちろんのこと、日頃の成果がよくないということを理由に解雇するのであれば、日頃の業績が芳しくなかった記録を残しておく必要があります。例えば3年間に渡り、目標とした成果に大きく及ばなかったというのはひとつの理由になります。その時、3年間の評価が悪かったという記録を残しておかなければ、解雇の理由となる資料とはなりえません。ジョブディスクリプションも業績評価の記録もいざという時に裁判の資料になりますので、記録の上、かならず保管をしておいてください。

(2) 解雇のプロセス

1)解雇する従業員の上司が人事の責任者あるいは経営者・経営幹部の解雇についての承認を得る。
2) 解雇理由を調査する。
3) 従業員ハンドブックのディシプリナリープロセス(段階的懲戒)に従う。
4) 解雇理由の文書化をする
5) すべての点において一貫性があるか確認する
6) 退社前に面談する機会を持つ
(人事部等直属の上司でないものが面談して感想を聞く)

■ 解雇のプロセスに入る前に~ある事例から~

「もうさすがに私もがまんできませんので、彼を解雇したいと思っているんです。」
あるHR担当者に営業マネジャーから電話が入ります。

そこで、解雇したいという該当者の業績評価を見ると、入社してから3年間5段階で3の評価。GOODが続いている。

なかなか、厳しい評価がつけられなくて、GOODが続くと言うのは日系の会社ではよくあることです。しかし、営業マネジャーに聞いてみると3年間ずっとひどいパフォーマンスが続いていて、もうがまんできない状態だといいます。

まず、このような場合、3年間がまんしているというこの期間が長すぎます。しかも、評価GOOD。これから解雇のプロセスを考えるのであれば、少し時間をかけて解雇までの道のりを進む覚悟をしなければなりません。

改めて、マネジャーは解雇をしたいと思っている人のジョブディスクリプションを確認します。その上で、ジョブディスクリプションに合致した明確な目標を与えます。この目標は期限つきのもので、業績評価のところでも説明したSMARTなゴールのことです。そして、このパフォーマンスを追いかけねばなりません。事実として、明確にパフォーマンスが目標をクリアしているか否かを追いかけるわけです。これを一定期間3ヶ月程度続けると、明らかにパフォーマンスが悪い場合、その記録を残し続けることができます。さらに、その次のステップとして、パフォーマンスが悪いことに対して、ウォーニングレターを書くことになります。例えば、3ヶ月過ぎたところで文書による注意を与えます。そして、次にこの文書による注意の2回目を受けたら、その時に無給で休職していただく、というような条件を出します。無給での休職期間中に職場に復帰した後、同じ仕事ができるために何が必要か考えておくように指示します。その時、もし、休職に入る前に退職するのであれば、退職金はいくら用意する。ただし、休職後に退職する場合は退職金は払わない。というような選択肢を作って、本人に選択してもらうことを促します。どちらの選択がメリットがあるかということを本人に考えさせた上で本人の意思によって選択させることが必要です。

この準備を進める前に、解雇の候補となっている人がどんな人であるかを考えておくことは重要です。どんな人というのは本人の性格や家庭の境遇、生活の状況等、あらゆる本人の情報をよく調べた上で今解雇に向けて、動いた場合、その本人がどのような反応をするかを予想した上で、解雇のプロセスの作戦を立てて行きます。この本人の反応の予想によって、プロセスの進め方も変わって来ますし、プロセスのスピードも変わって来ます。1つとして同じ例はないと思ってください。また、最初に申し上げましたが、解雇には常に訴訟がつきまといます。訴訟を起こされないように十分注意しても差別の訴えがあるかもしれません。解雇をする時には保険も含めて、いざと言う時にどの程度の予算を組むことになるのか、頭に入れた上で進まないといけません。是非専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

■解雇について射手園さんにインタビュー

-解雇についてはどのような姿勢で臨んだらよろしいのでしょうか?

「駄目な社員、トラブルメーカーは早急に解雇すべきです。タイミングを誤ると彼の悪い影響が社内に広がり、その駄目な社員の後釜を作ってしまう危険性があります。」

-時間的に猶予を持たずに解雇をすべきだということですね。実際の手順はどのようにされていますか?

「解雇を決定したならば、法的手続きを踏むことにより、早急に解雇を実行することをお勧めします。優柔不断な態度は他の社員に対して悪影響を及ぼすだけですから、注意してください。」

-マネジメントから解雇に対して、従業員への説明等も必要ですね?

「もちろんです。解雇した理由はその部門の社員に説明し、いらぬ噂や憶測が飛び交わないように注意しなければなりません」

-よく我々はドキュメンテーションが大事だということを申し上げるのですが、具体的に気をつける点はどのようなことでしょうか?

「解雇に値するような社員の行った所業と実損をいち早く洗い出す必要があります。体外的に対応をしなければいけないことも起こっている可能性がありますね。その場合は、【当社とは一切関係のないことです】というノーティスを出すことも考えな
ければなりません。」

-対外的な対応はなかなか気づかないところですね。解雇を決断したら急ぐ理由は他にもありますか?

「解雇に値する人間は社内備品や社内秘密を漏らす可能性もあり、そのあたりの対応も迅速に行う必要があります」

-我々は解雇を決断する前に口頭の注意、ウォーニングレターを出すといった手順についても行うように申し上げていますが。

「もちろん、マニュアル通りの法的手続きを踏んでの解雇でなければなりませんが、その過程にあって、余計な損害の発生を防ぐ手立ても考えないといけません。プログレッシブディシプリンは解雇の前の段階に行うもので、解雇を決断した場合には迅速に行うものと考えた方がいいでしょう。」

-その他解雇にあたって気をつけることはありませんでしょうか?

「通常一人の人間を規則違反で解雇しようとすると、彼や彼女の口から知らなかった色々な事実が暴露されるはずです。それが事実であれば、例えば、同じような規則違反をした人間が他にいた場合、自分だけが差別的に解雇された、というような口実を与えてはなりません。」

-ありがとうございます。解雇を決断したら、ということですが、この決断の境界線が経営者の判断としては難しいところでしょうね。

「基本的には本当に駄目だ、ということがない限り、全社員を戦力化するつもりで再教育、マンツーマン方式のペアによる仕事体制等により、社員のターンオーバー率を下げる工夫をするべきです。解雇することはやさしいですが、ターンオーバーのもたらす社員への影響を考えれば、そちらの方がはるかに意義のある安上がりの経営になります。」

■ 解雇前の確認項目

規則違反として解雇する場合、その規則がどこに公示されていたか確認
従業員ハンドブックを従業員に渡していたか、サインがあるか確認
以前に他に同様の違反事例があったか、あった場合の処置と今回が同じか確認
雇用者が今まで規則の運営に一貫性があったか再度確認
雇用者が今回の規則違反等に関する記録をすべてとってあるか確認
規則違反の口頭、文書による警告があったか、記録に残っているか確認
解雇対象者の過去の業績評価結果について確認
解雇の理由を徹底して調査したか確認
対象となった違反の記録が日時、場所、違反の場所、違反を証明する証人等
記録が残っているか確認

■退職時に必要な書類を渡す(企業によって必要な書類は変わります)

解雇理由を示す報告書
最終の給与小切手
ステータス変更用紙
健康保険
カリフォルニア雇用保険局失業保険給付金パンフレット
COBRA(Consolidated Omnibus Budget Reconciliation Act(会社から医療保険を受ける社員が20名以上の場合)
HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)
カリフォルニア健康保険プログラム
401(K)プランについての通知
従業員援助プラン
退職時質問表
権利放棄書(解雇社員にベネフィットを与えて訴訟を起こさない旨サインをもらう)

■ 解雇ミーティングで伝えるべきこと
1) 今回の解雇の理由
2) 会社の今後の予定
3) 今回解雇対象の部やポジションのリスト
4) 最終日の通達とその日までのスケジュール
5) 退職金やその他のパッケージがある場合はその内容と提供方法

■ 解雇ミーティング 話し方の鉄則4ヶ条
1) 情報は簡潔に明確に話す
2) 事実のみを伝える
3) ビジネスの理由に焦点を当てる
4) プロフェッショナルらしく振舞い、丁寧に話す

■ 解雇ミーティング 対応の鉄則7ヶ条
1) 謝らない
2) 余計な情報を与えすぎない
3) 個人的な意見は述べない
4) 交渉やディベートはしない
5) 感情は絶対にみせない
6) 他の従業員の情報は出さない
7) 質問にはその場で答えない

(3) 不当解雇と指摘される3つの大きな理由

下記の3つの理由が存在すると不当解雇として訴えられるリスクが高くなりますのでくれぐれも注意してください。

1)公共の政策に反する解雇
・ 犯罪に関わる仕事を拒否したための解雇
・ 労働者災害保障を請求したことによる解雇
・ 陪審員を務めるために会社を休んだことによる解雇
・ 証人として出廷するために会社を休んだことによる解雇
・ 会社に対する警察の取調べに協力したことによる解雇
・ 会社の指示した非道徳的な仕事の遂行を拒否したことによる解雇
・ 会社の不当行為や職場の安全性の欠陥を告発したことによる解雇
2) 黙示契約違反
口頭で長期契約をほのめかすようなことをしていると黙示契約違反と扱われる可能性があります。例えば「長く働いてくださいね」というような言葉を上司がかけたりしたことが黙示契約とされてしまうことがある。
3) 誠意・公正な取り扱いをしないとみなされた場合

※ 参考;米国式人事ハンドブック(パソナ)、米国式人事管理マニュアル(イマ・コンサルティング)

第4部 社内摩擦処理(トラブル処理)

次に挙げる問題でマネジメントが対策をとる必要があるものはどれでしょうか?
番号に○をつけてください。

1. 社内恋愛 (同僚間、上司と部下)
2. いじめ,いやがらせ
3. 真面目に仕事する人、しない人 (よくやる人が馬鹿臭くなる)
4. 公私混同のボス
5. 人種的アイソレーション
(日本人は自分たちだけに食べにでかけたり、イベントをしたりしている問題)
6. セクハラ
7. 文化摩擦
(例1:食堂で秋刀魚を食べるとアメリカ人には絶えられない臭いと感じ、その謙悪間が摩擦を引起す。
例2:自国語でしゃべる為何をしゃべっているのか、何を言われているのかわからずアメリカ人にイライラがたまる。)
8. トラブルメーカーに対してボスが何もしない
9. 特定の人間をえこひいき
10. 会社資材を私用に使う
11. 勤務時間に私用をすませる
12. 会社備品の持ちだし
13. 競合ビジネスを開始
14. 企業秘密の持ち出し

あなたはいくつ○がついたでしょうか?

実は全て○をつけて欲しかったのです。経営者の仕事は業績を向上させることですが、業績を向上させるためには経営者はその障害となるものを排除することに全力をつくさないといけません。

ではどのようにしてこれらの問題を排除していくべきでしょうか?
原則は下記の3点を実行することにあるでしょう。
1) ルールを明白にしてハンドブックに記載すること
2) ルールをマネジャーが公正に適用すること
3) ルールが破られた時の処置を適切に行うこと

この実行の3つのポイントを先にあげた14個の問題点と合わせて見て行きましょう。

1) ルールを明白にしてハンドブックに記載すること

上記に列記した中で、ハンドブックに特に記載しておくべきことはどのポイントでしょうか?
下記の項目はハンドブックに明確に禁止事項として掲載すべき内容です。さらにこの内容に違反した場合は、口頭注意、ウォーニングレター、休職、解雇といったプログレッシブディシプリン(http://www.imaconsulting.com/japanese/hrflash4.html)の対象になることを記載すべきでしょう。

2.いじめ,いやがらせ

いやがらせの中でも特に上司がその権力を楯にいやがらせをすることはハンドブックの中で厳しく禁じておきましょう。権力を楯に上司が部下にいやがらせをしていたことが発覚し、会社側が何も対策をとらなかったとすると、会社側がいやがらせを放置していたと見なされ賠償責任を問われる可能性もあります。

ハンドブックにきちんといやがらせを禁止する旨を記載し、従業員に渡して、サインをしておくこと。また、セクシャルハラスメント(セクハラ)の研修時にセクハラ同様権力を楯にしたいやがらせを厳しく禁止する旨を徹底しましょう。

6. セクシャルハラスメント(セクハラ)

セクシャルハラスメント(セクハラ)は日系企業でも大きな損害賠償を受けた例があるので、ご存知の方も多いでしょう。セクハラは大きくわけて2つのタイプがあります。「代償ハラスメント」と「不快環境ハラスメント」の2つです。

代償型は権力を利用して性的要求と引き換えに昇進や昇給を与えるようなケースです。不快環境は、性的な発言や行為、または性的表現を含んだ写真等の閲覧を会社内で行うことです。これによって不快感を得る人がでた場合に訴えられる可能性があります。訴えられる場合は、セクハラを受けた人が会社側を相手取って、「対策をとっていなかった」ことに対して訴えられるわけです。また、雇用者は管理職が部下に対して行うハラスメントだけでなく、出入り業者や顧客によるハラスメントにも責任を負わなければなりません。

ハラスメント対策はハンドブックにポリシーを掲載しておくことが必要になります。
それに従って、罰則規定を明解にすること。苦情処理のしくみを機能させる(言いにくいしくみにしない)ようにしておくこと。セクハラ苦情処理係を設置するのも1つの方法です。必要に応じて調査機関を設置するようにしましょう。調査においては対象者のプライバシーを侵さないように注意することも重要です。

また、CA州では50名以上の企業に少なくとも2年に一度はセクシャルハラスメントのトレーニングをスーパーバイザー対象に行うことが義務付けられました。必ずトレーニングを行って、その行った記録を残しておいて下さい。トレーニング自体の効果も期待されますが、さらに、トレーニングを行っている実績を記録に残しておくことで、ハラスメントで会社の対策不備を訴えられることがないようにしておきます。

10. 会社資材を私用に使う

射手園さんのスモールビジネス成功のセオリーに少額のお金を使う時にも大きなお金を使うのと同じように考えて使いなさい、というセオリーがありましたね。会社の資材を私用に使うのも少しぐらいだから、というちょっとしたことからだんだん大きなものへ発展していきがちです。会社の資材は少量から、真剣に管理することが求められます。ハンドブックには会社の資材を私用に用いてはならないことを徹底するように記載いたします。

それから、ルールの公正な運用という面ではマネジャーが厳密にそのことを管理することが求められます。このような管理には、私用に使うことを起こさせないしくみを作ることが必要で、例えば、管理する人を一人で管理せずに複数人で相互にチェックするようなしくみを入れておきます。人間は弱いものですので、相互に監視することによって、出来心を起こさせないしくみをつくるのです。

11. 勤務時間に私用をすませる

時間も大事な会社の資産です。特にNON-EXEMPTは時間に対して給料を払っています。まさに1時間幾らという金額です。この金額を払いながら、私用を済ませるということは、時給換算したお金を持ち逃げしているのと同じこと。厳しく管理する必要があります。
ルールに規定するのはもちろんですが、この問題を管理するのは、公正な運用をすることの方が難しいでしょう。特に、ポジションが上がれば上がるほど、時間の管理に甘くなる傾向があります。ルールの運営で注意しなければならないのは、あの人が良くて、この人はだめだ、という一貫性のない運営です。そのためには、マネジャーが責任を持って、全ての違反者に同じようにプログレッシブディシプリンを行うことが求められます。

12. 会社備品の持ちだし

会社の備品の持ち出しについても勤務時間と同様小さいものから厳しく管理しましょう。ルールに規定した上で運営が問題となるのがこの問題も同じです。文房具ぐらいなら、という一貫しない態度が、会社の大きな備品の持ち出しにつながることになります。

13. 競合ビジネスを開始

競合ビジネスの開始を禁止する項目もハンドブックには必須のものでしょう。ハンドブックにサインしてもらう時に必ず確認したい項目です。特に大きな投資をして築いた顧客との関係を失うことがないように管理しましょう。

14. 企業秘密の持ち出し

企業秘密は様々です。各種技術やビジネス上のノウハウ、パテント、は勿論、会社の事業計画、会社の事業計画、市場調査、会計情報、商品コスト、商品価格、プロジェクトの内容、株主、供給元、その他機密事項、そして、ハンドブックの内容そのもの。
また、個人の人事情報や個人情報、電話番号や給与の情報は秘密にしておく必要があります。

さらに、会社の技術やコンピュータに関する情報やネットワークのデータやパスワード等のセキュリティ情報。建物やオフィス自体のセキュリティ情報も重要な機密事項です。
ひとつひとつハンドブックに書き込んで確認をしておく必要があります。

■13、14に関して注意事項

CA州では,一般的競合禁止事項の強要は無効ですので、直接秘密を把握する立場にある人物には,秘密厳守の為に契約書の作成の必要があります。この点の契約については弁護士にもご確認下さい。

その他ハンドブックに必要な記入事項

顧客や取引先の贈答や接待を受けることの禁止、使用電話や私用インターネット利用のルール、禁煙、職場での勧誘行為(ネットワークビジネスや宗教等)の禁止、麻薬の禁止、勤務中の飲酒の禁止、他社での勤務の禁止、度重なる遅刻と欠勤、許可の無い残業、書類の偽装、会社に対する不従順行為、ギャンブル、他人の殺傷・おどし、職場でのののしり・けんか、休憩時間以外の睡眠、武器や銃の持ち込み、等考えられることで明文化できるものは禁止事項として明確に謳っておくことが望ましいでしょう。

その他の問題は、ハンドブックに記載するのは難しいかもしれませんが、経営者は目を光らせておくべき内容です。

1. 社内恋愛 (同僚間、上司と部下)

社内恋愛はすぐに周囲から分かるものです。組織全体のモラルに関わる問題ですから、経営者として対処を考えないといけません。

3. 真面目に仕事する人、しない人 (よくやる人が馬鹿臭くなる)

仕事をしない人はいるものです。その人を放っておくことが問題になります。期待された成果に達していない場合は口頭でフィードバックし、成果の記録に未達成と残しておきます。さらに成果が達成できない状況が続いた場合は、ウォーニングレターを発行します。さらに成果が上がらない場合はプログレッシブディシプリンに従って、休職、解雇というプロセスに移ります。毅然とした態度で成果を挙げない人材を対処しないと、真面目な人が馬鹿を見ることになってしまいます。どのような人材に対しても同じように厳しく対処することが重要なポイントでしょう。

4. 公私混同のボス

昔の日本では社員にたばこを買いに行かせたりするという光景をよく目にしたものですが、ボスがこれをやってしまってはハンドブックに謳っていることのルールもいっぺんに吹き飛んでしまいます。ボスが公私混同をしているような場合には経営者が厳しく対処するようにしましょう。ここでもプログレッシブディシプリンを使って、経営者からボスに警告を出すべきです。

また、ボスが公私混同しているという話が即経営者に耳に入るようなしくみを作っておくことが重要です。定期的なミーティングやアンケートのしくみを導入してください。また、部下によるボスの評価も無記名で行う等の評価を行ってください。そして何よりも社員の間からインフォーマルに情報が入ってくるように社内にアンテナを張っておくことです。なかなか上司には本当の情報が入ってこないのが常です。経営者ともなればなおさらでしょう。経営者に気さくに話ができるような雰囲気を作るのはとても重要なことで、一朝一夕にはいかないことです。一旗会にはいろいろ工夫をしてマネジメントをしていらっしゃる経営者の方が沢山いらっしゃいますので、そういった経験を共有して、自社に活かすというのもひとつの方法です。

5. 人種的アイソレーション
(日本人は自分たちだけに食べにでかけたり、イベントをしたりしている問題)

「めしを食べる時ぐらい英語から開放されたいよ」
そんな風に思ったことはありませんでしょうか。日本人とだけで過ごしていたほうが楽でしょうから、ついついそんなことになります。休み時間くらいはと思うかもしれませんが、経営者としては、経営が休みなく動いているように、社員とのコミュニケーションにも休みはありません。リラックスできる時間だからこそ、積極的にいろいろな社員が一緒にでかけられるように気を配りましょう。

7. 文化摩擦
(例1:食堂で秋刀魚を食べるとアメリカ人には絶えられない臭いと感じ、その謙悪間が摩擦を引起す。
例2:自国語でしゃべる為何をしゃべっているのか、何を言われているのかわからずアメリカ人にイライラがたまる。)

ある企業さんでは日本、中国、米国といったそれぞれの文化の壁を越えなければならず、それぞれの人種間の文化摩擦が起こっていました。文化が異なれば感じるものが変わるのも当然です。違いをお互い尊重した上で、コミュニケーションをとることが重要です。秋刀魚のニオイが耐えられないのも、そのこと自体を知らなければ気をつけることもできません。まずは、耐えられないのだという気持ちを聞き出すことが最初の努力を要するところでしょう。

また、会議中に日本人同士が日本語で話すことはよくあることです。理解が深まらないから、ということだと思います。もちろん理解が深まった方がよいのですが、日本語を使う時には必ず許可をとってから話しましょう。そして、何を話したのか、相手に日本語で簡単に要約して伝えるような努力をすることは必要でしょう。自分の存在が無視されたような状態陥らないように注意をしてください。

8. トラブルメーカーに対してボスが何もしない

ルールをいかに公正に運用するか、という問題ですね。必ず、トラブルが起こした人がいたら、プログレッシブディシプリンに則って厳正に対処してください。そうしませんと、真面目な人が馬鹿を見るということと同じことが起こってしまいます。他の従業員に悪影響が出て、結局マネジメントは何もできないじゃないかと不信感が募ります。また、同僚のマネジャーや経営者は何も対処をしないボスを放っておくことがないように注意をしてください。

9. 特定の人間をえこひいき

人間に好き嫌いがあることは止むを得ないことでしょう。しかし、ある人間だけにはルールを適用するが、ある人間にはルールを適用しない、ということはさらにトラブルを生むことになります。

ある企業では、米国人が遅刻をしても何も言わないのに、日本人が遅刻をするとすぐに呼びつけられて注意をされる、という声が上がっていました。日本人ですから、日本語で注意をするほうが簡単だと思いがちです。また、米国人にいろいろ反論されるのも面倒だと思うかもしれません。あるいは、米国人に遅刻のことをいろいろ注意しても無駄なのだ、と思うかもしれません。

しかし、どの従業員も公平にルールを適用してください。好き嫌いで対応を変えないで、事実に対して行動を起こしてください。その人自体を注意すると思わないで、仕事に対して、行動に対して注意をしてください。それが特定の人間のえいこひいきをしないコツになります。

この企業の場合も、米国人であれ、日本人であれ、遅刻をした事実に対して、同じように注意をすることです。社員はボスの言動、経営者の言動を恐ろしいほどよく観察しています。そして、ボスや経営者の公平でない言動を発見したような場合にはすぐさま同僚に話しをします。仮にボスや経営者が公平なことをしても、たとえ努力をしておこなったとしても、ほとんど部下は気づかないでいるでしょう。しかし、仮に公平でないことをした場合には即周りの同僚に不満を伝えていると思っていいでしょう。悪事千里を走るというのは社外だけではありません。社内でもボスや経営者の不公平の話題はあっという間に組織に広がり、不信感を募らせます。不信感が募れば、従業員の士気に影響が出て、業績が下がることもあり得ます。さらに、不信感だけで終わらずに差別として訴えられてしまえば、莫大な損害賠償をすることになるかもしれません。

ほんの小さな噂話に耳を傾けてください。そして、(1)ルールが決まっているか、(2)ルールが公正に運営されているか、(3)ルールを破ったことに適切に対処しているか、かならずチェックしてほしいものです。

■射手園さんに、この社内摩擦処理(トラブル処理)について伺いました。
是非参考にして、今日から行動をとってください。

-この第4部で社内摩擦処理(トラブル処理)をとりあげた理由を教えてください。

「会社が業績をあげていくためには全社員が戦力として,その持てる力をフルに発揮できる体制が無ければいけません。
それと併行して、トラブルは発生の兆しがあればその時点でそれをピックアップ、問題が小さなうちに処置していかないと訴訟事件に発展したり、思わぬ事件に巻き込まれる事になります。問題発生を如何に速やかに発見そして処理していくか,それが経営者の仕事になります。詰まり、経営者はどのような小さな苦情であっても決して見逃さない、そのような体制で経営にあたらなければなりません。」

-同感です。しかし、これは実際に実行するのがとても難しい問題ですよね。どうやって実行していったらよいのでしょうか?

「そうですね。現実には人間100人寄れば100人とも違うわけで,如何しても相性、仕事の処理方法、処理能力、それに付随するコミュニケーションギャップと色々な摩擦が生じることになります。そのような場合、そのような社員間の摩擦をどう解決していくか、それを社員に徹底させる事が必要です。 そして,会社はそのような事態が発生している事を知ったならば,直ちに行動を起こし,止めさせなければなりません。それをしなければ会社が訴えられる事になります。」

-日系企業さんを訪問していると、ほとんどの会社が何らかの訴訟を経験しているようです。訴訟を防ぐコツについて教えてください。

「結論として、トラブルは小さなうちに見つけ処理する事です。さもないと大きな損失を招く事になります。小さな摩擦は社員の能力発揮を阻害、会社としては業績低迷を招く事にまでなりかねません。さらには訴訟に発展するのです。
業績低迷を避け、訴訟を防ぐには、トラブル・社員間の摩擦発生時にそれを如何取り上げていくといった社内システムと対応システムが用意されていなければなりません。それが実現出きるのは,経営者が人材の重要さと会社の繁栄が同一のものであると確信、確固たる姿勢で取り組むからに他なりません。
その姿勢の現れがハンドブックであり,HRシステムと言う事になるのです。」

感謝

ありがとうございました。これは私自身の自戒を込めての感想ですが、どうしても我々はハンドブックやHRシステムという目に見えるツールに先に目が行きがちです。射手園さんから
「それが実現できるのは,経営者が人材の重要さと会社の繁栄が同一のものであると確信、確固たる姿勢で取り組むからに他なりません。
その姿勢の現れがハンドブックであり,HRシステムと言う事になるのです。」
というお話を伺い、【確信、確固たる姿勢、経営者の心】そのものがハンドブックやHRシステムに反映されて、初めてハンドブックやHRシステムが活きてくるのだと改めて気づかされました。仏作って魂入れず、とならないためにも、まずは心を創って、ハンドブックやHRシステムを創っていくことが必要なのですね。おそらく心が創られていないと、実際のルールの公正な適用、ルールが破られた時の適切な処置ができないのだと思います。

この原稿を作成しながら私自身も大いに学ばせていただきました。少しでもみなさんのビジネスにお役に立てれば幸甚です。また、この原稿はまだまだ未完成の部分も多いと思っています。皆さんの声や実体験をお聞きしながら、どんどん発展させていきたいと考えています。

最後になりましたが、この場をご提供いただき、原稿が上がるたびに辛抱強くコメントをいただいた射手園さん、原稿をホームページに掲載していただいた高橋さん、それからこの原稿を見てくださりご意見をいただく一旗会の皆様、そして、一旗会のホームページをご覧の全ての方に御礼を申し上げます。感謝!感謝!です。
ありがとうございました!

担当:山口憲和(やまぐち のりかず)
Email: norikazu_yamaguchi@nifty.com
http://hr.cocolog-nifty.com/
★毎日更新!ブログ http://plaza.rakuten.co.jp/shigekinin/

※本稿の中で触れたアメリカの法律についての記載は一般的な情報を提供することを目的としております。
筆者は正確な情報を提供するよう心がけておりますが、本稿の内容が正確であるか、完全であるか、また最新の情報であるかについて保証しているものではありません。本稿の内容を利用される前には必ず専門家にご相談下さい。また本稿の著作権は上記個人に帰属します。無断転載はご遠慮下さい。

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